男女差の体格がなくなり、犬歯が退化した直立原人が誕生する前の人類は、アウストラロピテクスと総称されるが、そのうちの200~300万年前に南アフリカに生存していた種類が、アウストラロピテクス・アフリカヌスだ。もちろんこの時期になると、遺伝子を調べることなど夢のまた夢で、時代測定と形態の比較、そして石器の解析が研究の中心になる。
しかし現代の分析手法が、このアイソトープの組織内分布パターンを解析できる能力があり200万年以上前のアウストラルピテクス幼児の食事まで分析できるとは、今日紹介するオーストラリア・サザンクロス大学を中心とした論文を読むまで、想像だにしなかった。タイトルは「Elemental signatures of Australopithecus africanus teeth reveal seasonal dietary stress(アウストラロピテクス・アフリカヌスの元素解析により食料の季節的ストレスが明らかになる)」だ。
方法を読んでみると、歯の切片を切り出した後、レーザーでそれぞれの場所から小さなスポットを採取して、質量分析器で調べ、 結果を組織状に再マップし直す方法が用いられている。この方法で、成長に従ってカルシウムが沈着する歯のそれぞれの場所のバリウムとカルシウムの比を調べると、母乳を飲んでいた時期がわかるらしい。もちろん自然界にバリウムは多く含まれているが、消化管での摂取の選択性のためか、なぜか母乳を飲んでいた時にバリウムの比が高まり、離乳してしまうとバリウムはほとんど歯に蓄積しなくなる。
なるほどと感心するが、実際この方法は現存の野生動物や、ネアンデルタール人などの離乳時期を調べたりするのに広く用いられてきた様で、要するに私が知らなかっただけだ。あまりゲノムばかりに心を奪われていると、考古科学の進展を見失うことがよくわかった。
従って、この研究はこれまで確立された方法をそのままずっと古いアウストラロピテクスで試してみたという話になる。
結果だが、まず離乳時期が大体6~9ヶ月の間ということがこの解析からわかる。まず一年を超えることはなかった様だ。人間では18ヶ月までなので、だいぶ短いといえる。
ただ人間と全く異なるのは、授乳時期でもバリウム/カルシウム比が3~4ヶ月のサイクルで変化することで、リチウム/カルシウム比をとっても同じ様なサイクルが見られる。
結果はこれだけで、これまでのサルの歯を用いた同じ手法の研究などと比較しながら、このサイクルがサバンナで暮らしていたアウストラピテクスの食料調達の季節性を反映しているのではと結論している。すなわち、サバンナでは乾季になると食料の調達が難しくなる。従って、ミルク以外を摂取する様になっても、食料調達が減った時は母乳への依存性が高まることを示している。
この説の可能性が高いことは、同じ方法で解析した野生のオランウータンではこのサイクルが見られるが、人間に飼われているオランウータンにはこのサイクルは消失する。
以上のことから、アウストラロピテクスの住んでいた南アフリカのサバンナの厳しい状況が推察できるという話だ。しかし、これほど精密な元素分析が可能になっていることに驚いた。
サイクルがサバンナで暮らしていたアウストラピテクスの食料調達の季節性を反映している
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2-3百万年前のこんなことまで推測できる技術、すごいです。