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1月28日 聴診器のなくなる日(Global Heart誌12月号掲載)

2014年1月28日
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すこし古くなったが、12月号のGlobal Heartという心臓関係の雑誌に興味をひく編集者のコメントが出ていたので紹介する。「How relevant is point-of-care ultrasound in LMIC? (低開発国でのベッドサイドでの携帯型超音波診断装置はどれほど適切か?)」と言うタイトルで、最近市場に出回って来たポケットにも入る携帯型超音波診断装置が個人医師の必携器具になり、聴診器を医師のポケットから駆逐する日が近いかもしれないと占っている。私も不勉強で、超音波診断装置と言うと小さいと言っても高々パソコン程度の大きさかと思っていた。しかし、アメリカ陸軍の肝いりで、戦場でも使える携帯型超音波診断装置の開発が行われ、現在では大手GEヘルスケアを始めアメリカで幾つかの会社がポケットに入るサイズの超音波診断装置を数千ドルで販売している。我が国でも、コニカミノルタから同様のスペックの装置が販売されているようだ。コメントでは、アメリカ陸軍の期待通り、既にこの装置はpoint-of-care、診療現場になくてはならない機器になりつつあるらしい。先ず戦場や救急車、患者運搬リコプターなどに急速に軍で普及したようだ。コストが下がると普及は加速する。ハリケーン被災者や、ハイチ地震では、これまで他の機器が必要だった症例の半分以上の正確な診断に役立った。この結果を見て、WHOも設備が整っていない医療現場で最初に導入すべき装置であると勧告を出した。そして今や世界各地の難民キャンプではこの装置の使用方についての訓練が最優先に行われていると言う。この様な状況を見た上で、聴診器が発明されて200年になる今、ついに聴診器が医療現場から消えるプロセスが始まったのではと結論している。即ち携帯型超音波診断装置はそれほど破壊的ポテンシャルを持っているようだ。実を言うと、私が病院で働いていたときはまだ超音波診断自体が普及していなかった。超音波診断になれていない古い世代の私にとってもこのコメントは説得力があり、病院から聴診器が消える姿が想像できる。当然明日聴診器が消える訳ではない。ただ、初診時に極めて高い診断を可能にする安価な機器の利用法の教育は急務だ。この機器に聴診器機能を与える事は簡単だろうし、ウェアラブルにする事も出来るだろう。この様な機器は医師とともに使い易さを磨く事が商品競争力につながる。幸いまだ日本企業もこの分野でしっかり勝負をしているようだ。ひょっとしたらウォークマンのように世界中の家庭に普及させる事も出来るかもしれない。我が国の教育現場や、医療イノベーションでもこの状況が把握されているのか心配だ。

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