アルツハイマー病(AD)のメカニズムについては、最近急に様々な説が提案される様になった印象がある。この状況は、βアミロイドを標的にした抗体薬や、BACE阻害剤の臨床治験の相次ぐ失敗による重い気分を振り払って、ADもいつか科学的な治療法が開発される期待を膨らませてくれる。
今日紹介するマドリッド自治大学からの論文はそんな希望の研究の一つで、これまでとは違うアルツハイマー病治療標的についての研究で7月15日号のNature Neuroscienceに掲載された。タイトルは「Elevated levels of Secreted-Frizzled-Related Protein 1 contribute to Alzheimer’s disease pathogenesis (Frizzled Related Protein 1の上昇がアルツハイマー病の病気発症に貢献している)」だ。
タイトルからわかる様に今回標的の一つとして特定された分子が分泌型Frizzle Related Protein 1(SFRP1)で、Wntシグナルの阻害と、マトリックス分解酵素ADAM10の阻害の両方の機能を持っている。この研究ではADAM10がβアミロイドを切断する能力を持ち、この分子異常がAD発症に関わるというこれまでの報告に注目し、ADAM10を阻害するSFRP1がADのβアミロイド沈着に関わるのではと着想した。
この可能性を確かめるために組織学的にADでSFRP1が上昇しているか検討し、期待通りSFRP1レベルが上昇、しかもアミロイドプラークに沈着していることを確認する。
次に試験管内でβアミロイドとSFRP1が相互作用して、アミロイドの切断が阻害されることを確認する。
あとは実際にSFRP1とAP発症が関連するかどうか、まずマウスADモデルで確かに脳内でSFRP1のレベルが上昇し、βアミロイドとAFRP1が結合していることを確認した上で、SFRP1を脳で過剰発現させるとADが誘導できるかどうか調べ、実際アミロイドプラーク形成が上昇し、病理的ADが進行することを確認している。
逆にADモデルマウスでSFRP1遺伝子がノックアウトされると、沈殿型βアミロイドの形成やプラークの形成が抑えられ、行動学上もADの異常が抑えられることを明らかにしている。
この結果を受けて、最後にSFRP1に対する抗体投与でAD発症が抑えられるか調べている。この実験で最も驚いたのは、抗体をビオチン化するだけで脳内移行が高められることで、毎週ビオチン化した抗体を静脈に注射するだけで、ADの発症が抑えられ、生理学的にもシナプスの長期増強が回復していることを確かめている。
以上、全く新しいというわけではないが、もう一つ新たなADの治療可能性が示された。
SFRP1に対する抗体をビオチン化→脳内移行が高められ毎週ビオチン化した抗体を静脈に注射→ADの発症が抑えられ、生理学的にもシナプスの長期増強が回復した
Imp:新薬開発がコトゴトク失敗している領域の一つ。
これだけ社会問題化している疾患なのに良い薬がない状況、冷静に考えてみると恐ろしい状況です。早急なる解決が急務な問題の一つ。