今日から神戸で、MECP2重複症患者さんの家族会(http://www.mecp2.jp/)のファミリーキャンプが開催される。私たちAASJは初期から家族の人たちの奮闘を見ており、この記念すべき第一回キャンプに参加するのをたのしみにしている。嬉しいことに、MECP2に関する研究は着実に進んでおり、遺伝子治療以外にも様々な治療法が開発されつつある。
今日紹介するマサチューセッツ工科大学からの論文はMECP2が欠損する方のレット症候群治療のための研究だが、同じ方法は重複症にも用いられると期待できる。論文は8月1日号のScience Translational Medicineに掲載され、タイトルは「Pharmacological enhancement of KCC2 gene expression exerts therapeutic effects on human Rett syndrome neurons and Mecp2 mutant mice(KCC2遺伝子発現を薬理的に促進することでレット症候群の神経やモデルマウスに対する治療効果がある)」だ。
レット症候群もMECP2重複症も原因となる遺伝子変異ははっきりわかっており、遺伝子編集によるゲノム治療が最終的治療法といえる。ただ、MECP2分子の機能研究から、MECP2の異常により機能異常が起こっている分子を見つけ出し、その機能を正常化させるための研究も進んでいる。この研究は、まさにこの方向性の研究だ。
このグループはレット症候群の神経細胞ではクロライドイオンと、カリウムイオンの輸送に関わるKCC2の発現が低下していることを発見していた。この分子は、興奮性神経と抑制性神経のバランスを維持する重要な働きがあり、レット症候群の症状の一部がこの異常を反映していると考えられる。
この研究ではヒトES細胞のKCC2遺伝子を標識してその発現をモニターできるようにし、発現が高まる化合物を探索し、数種類の化合物を発見している。面白いのは、こうして発見された化合物はそれぞれ異なる経路に関わる。
一つは白血病の治療に使われるFLT3阻害剤で、これをマウスの脳スライス培養で調べると抑制性神経の効率を高めることができる。同じように、BIOなどのGSK3β阻害剤、レスベラトールなどのサーチュイン経路、そしてピペリンなどのTRPV1刺激と、4種類のKCC2発現を高める薬剤が特定できた。
最後に、レット症候群モデルマウスの呼吸と運動機能について、Flt3阻害剤やピペリンが症状改善に効果があるか調べ、期待通り大きな効果が得られることを示している。残念ながら、社会行動の正常化などについては調べていないため、今後の研究が待たれる。
結果は以上で、MECP2変異があっても、その下流の遺伝子の発現を正常化させるための方法は何通りもあることを明確に示した点で、希望を与える貢献だと思う。もちろん、抗がん剤をそのまま使っていいのかなど、多くの問題は残されている。また、他にも多くの標的があるだろう。ぜひこの方向の研究も進んで欲しいと願っている。
レット症候群、遺伝子編集によるゲノム治療が最終的治療法
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レーバー先天性黒内症10型にクリスパーを使った遺伝子治療治験が開始とのニューズが流れました。ノーベル賞もまだなのに時代は急展開してるようです。その他の治療法開発も盛んなようです。