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2月4日:私たちのゲノムの中のネアンデルタール人ゲノム(Nature オンライン版)

2014年2月4日
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後悔先に立たずと言うが、年を重ねるほどこの実感は深まる。数学が苦手で医学部に行ったが、そのまま何の努力もしないで今に至っている。このため数理が必要な分野は苦手だ。しかし21世紀文明の基盤になると思っているゲノム研究も数理の必要な分野だ。特に化石ゲノムの研究になると、数理の必要性は明らかだ。過去に起こった事は実験として繰り返せない。このため、様々な数理的手法が合理的推計に利用される。今日紹介する仕事も基本的には数理の仕事と言っていい。これまで紹介したように、ネアンデルタール人の全ゲノムがかなりの精度で決定され始めた。ここから生まれた最初の大きな発見は、今のヨーロッパ人やアジア人のゲノムの中にネアンデルタール人のゲノムの一部が見つかるが、アフリカの人には見つからないと言う事実だった。即ちヨーロッパやアジアに住むホモサピエンスとネアンデルタール人は歴史のどこかで交雑を行っていたと言う事だ。今日紹介する研究はこのネアンデルタール人の遺伝子が私たちゲノムのどこに残っているのかを特定する研究で、ハーバード大学が中心となった共同研究だ。もちろんあのPaaeboさんも著者の中に入っている。論文はNatureのオンライン版に掲載され、タイトルは「The genomic landscape of Neanderthal ancestry in present-day humans (現代人の中にあるネアンデルタール人祖先を眺める)」だ。ほとんど同じ内容の論文がワシントン大学からScienceオンライン版に掲載されており、タイトルは「Resurrecting surviving Neanderthal lineages from modern human genomes (現代人のゲノムからネアンデルタール人の残存する系統を復活する)」だ。この二つの論文は異なる数理的解析法を用いているが、ともに現在得られるヒトゲノムデータとネアンデルタール人ゲノムデータを比べており、ゲノム配列決定や考古学の実験などは全く行っていない。この分野で実験と同じだけ、情報処理が重要になっている事がよくわかる。今回はNature誌の論文を紹介する。この研究が使った数理的手法は「条件付き確率場」と言う方法で、現代人の遺伝子配列にネアンデルタール人というタグをつけるための処理方法と考えてもらえばいい。実際には1000人ゲノムプロジェクトで配列が公開されている一人一人のゲノムの各部位をネアンデルタール人とネアンデルタール人の遺伝子を持たないアフリカ人のゲノムと比較して、どこがネアンデルタール人から来ているのかを染色体地図上にマッピングする研究だ。結果は大変面白い。例えば皮膚細胞機能に重要なケラチンと言う分子をはじめ、皮膚や毛の発生に関わる遺伝子が存在する領域にネアンデルタール人由来の遺伝子が集まっている。ネアンデルタール人の持っていた優れた皮膚の特性を私たち現代人が受け継ぎ、お世話になって来た事がわかる。他にも、ループス、胆汁性肝硬変、クローン病などの自己免疫疾患や、2型糖尿病に関わりがあるとされる領域にもネアンデルタール人由来部分が多く見られるようだ。おそらくネアンデルタール人由来部分が流入する事で病気が防がれるようになったと思われる。これとは逆に、ネアンデルタール人遺伝子が全く見られないゲノム領域も見つかる。特に面白いのは、精巣に発現している雄の生殖能力に関わる遺伝子が多く存在するX染色体上の長い領域に、ネアンデルタール人由来の部分が見つからないという発見だ。これは、この部分がネアンデルタール人に置き換わると、雄の生殖能力が失われる事を意味している。事実、この領域にある遺伝子の多くは精巣で発現している。これらの結果は、ネアンデルタール人とホモサピエンスは交雑可能だが、交雑により生殖能力が低下するほど既に系統樹上かなり離れてしまっている事を示唆している。一方、現在の人種間での交雑ではこの様な事は起こっらない。Science誌に掲載された論文では、交雑が進化の特定の時点だけで起こったのではなく、何回も繰り返されて来た事や、アジア人により遺伝子流入機会が多かった事も示されている。研究は恐ろしい速度で進展している。ゲノム情報と数理を駆使して新しい歴史が書かれているとおもうとわくわくする。このように、ゲノム研究には数理を駆使する事の出来る人材が多く必要だが、一体我が国の現状はどうなのか、少し心配になっている。
  1. 齋藤茂和 より:

    駄目ですよ。多少の誤字脱字、変換違いは愛嬌ですが、
    3月4日は無理です。2月4日に訂正してください

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