AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 2月5日CRISPR狂躁曲(Cell誌2月号掲載論文)

2月5日CRISPR狂躁曲(Cell誌2月号掲載論文)

2014年2月5日
SNSシェア
CRISPRと呼ばれるテクノロジーが遺伝子改変の世界を変えつつある事をこれまでも紹介して来た。私はこの技術の可能性を知り、理解し、試してみる事が生命科学に関わる人達にとって重要だと確信している。このため、一般の方にとってはあまり面白くないとは知りながら、CRISPRの様々な使われ方を紹介して来た。今日紹介する論文もCRISPRの可能性を語る研究で、中国雲南省にあるサル学研究所など中国の動物開発に関わる幾つかの研究所の仕事だ。論文は今月号のCell誌に掲載され、「Generation of gene-modified cynomolgus monkey via Cas9/RNA-mediated gene targeting in one cell embryo (一細胞胚のCRISPR法操作によるカニクイザルの遺伝子改変)」がタイトルだ。実験は簡単で、人工授精卵にCRISPRに必要なCas9遺伝子mRNAと標的遺伝子配列を破壊するのに必要な短いRNAを注入する。培養細胞と違って、卵はRNAを注射するのが容易なので、ベクターなどを用いる必要はなく、必要なRNAセットを直接注入するだけでいい。最初の実験では、全ての卵に3種類の標的遺伝子を破壊するためのRNAセットを混合して同時に注射しており、うまく行くと複数の遺伝子を同時に破壊する事が期待できる。最初パイロットとして15個の卵が使われているが、4個でNr0b1遺伝子、7個でPpar-γ、9個でRag1遺伝子の破壊に成功し、そのうち6個ではPpar-γ、Rag1両方の遺伝子が破壊できていたと言う結果だ。現在研究が進行中で、19匹の胎児の出産を待っているが、Ppar-γとRag1がそれぞれ破壊された子供が既に誕生していると言う。遺伝子破壊が起こった子供の出来た時点で論文を投稿し(12月)、1月には採択される異例のスピードだ。まさに狂躁・競争曲だ。この背景には、遺伝子改変サルでしか出来ない研究が多くあることを示している。事実、今回遺伝子破壊した遺伝子もなかなか良く考えてある。Nr0b1は性決定に関わる遺伝子で、動物の生殖補助医療に携わる研究者なら興味は大きいはずだ。加えて、Ppar-γは糖尿病や肥満などの生活習慣病の研究に重要だし、Rag1は細胞移植の際免疫抑制の必要のない宿主サルを得る事ができる。小保方さんの様なサプライズはないが、可能性のある課題を系統的に実現に導く能力の高さが中国の研究には存在する。これまでも紹介したように、馬力のいる研究分野の中国の力は最近急速に伸びて来ている。ゲノムや動物モデルなどはその典型だ。日本でもサル胚操作が出来る施設は多くあるが、おそらく馬力では到底かなわないだろう。とは言え日本でもサルモデルの確立をのために多額の助成金が出ている。是非しっかりと追いついて欲しい。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*


reCaptcha の認証期間が終了しました。ページを再読み込みしてください。