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9月6日: 寒いと感じるための受容体(9月5日号 Cell 掲載論文)

2019年9月6日
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外界の変化を感じるために私たちは様々な感覚受容体を持っている。これまで紹介したように痛みだけでも複数存在するおかげで、ワサビや玉ねぎまで感知できる。温度もそうだ。暑さだってかなり正確に感じることができるし、冷たいを、さめていると区別できる。しかし知らなかったのだが、温度が低い(涼しい)と感じる受容体はわかっていたようだが、寒いと感じる受容体は分かっていなかったようだ。

今日紹介する華中科技大学とミシガン大学が共同で発表した論文は、線虫の変異体のスクリーニングにより「寒さ」を感じる受容体が線虫から脊髄動物まで、グルタミン酸受容体であることを特定した研究で9月5日号のCellに掲載された。タイトルは「A Cold-Sensing Receptor Encoded by a Glutamate Receptor Gene (寒さを感じる受容体はグルタミン酸受容体遺伝子の一つだった)」だ。

この研究で最も面白いと感じたのは、線虫の突然変異レパートリーの中から寒さを感じる受容体を探し出す方法だ。実際には、多くの線虫を適温の20度から10度に変化させて、その時に活動する神経細胞を探し出す必要がある。興奮する神経はカルシウムの流入で調べられるが、温度を何度も変えて確かめるために、この研究ではPCRに用いる96穴のサーマルサイクラーを用いることを着想し、7000以上の個体をサーマルサイクラーで温度を変えながら、寒さに反応する遺伝子が欠損した個体を突き止めている。

このユニークな方法で見つかったのが線虫の腸内に存在する感覚GLR-3と呼ばれるグルタミン酸受容体で、本来の線虫の系で、この受容体が確かに10度という寒いを感じる受容体であることを確認する。またこの特殊な神経が興奮した時に起こると知られている泳ぐ方向性のターンが低温で誘導できることを明らかにしている。

次に、GLR-3に対応するマウス遺伝子GluK2を特定し、この受容体が線虫の細胞で同じよう寒いを感じる受容体として働けること、寒いの感覚にはチャンネルは必要なく、いわゆるメタボトロピックと呼ばれる機能、すなわちGタンパクを介するシグナル分子として働いていること、そして皮膚から後根神経節へ感覚を伝える神経の一部がGluK2を発現して、寒さを伝えていることを明らかにしている。同じ受容体は魚から人間まで保存されているようなので、寒さの感覚は線虫のような早い段階で進化して、脊髄動物が進化しても変わらずそのまま人間まで維持されてきたことがわかる。

結果は以上で、サーマルサイクラーで温度変化を実現したという点に感心したと同時に、感覚といっても本当にわかっていないことが多いことを思い知った。

  1. okazaki yoshihisa より:

    寒さの感覚は線虫のような早い段階で進化して、脊髄動物が進化しても変わらずそのまま人間まで維持されてきた

    Imp:
    ヒトの体内、線虫のサブルーチンも動いてるんですね。
    かなり古いソフトウエア。

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