糖尿病薬の中で直接ベータ細胞に働きかける作用を持つものとして GLP-1(インクレチン)が存在するが、これはベータ細胞にインシュリンを分泌させる作用はあっても、糖尿病でベータ細胞が徐々に失われるのを止める作用はない。この点で期待されているのが、やはりインシュリン分泌促進作用を持つアディポネクチンの一つで、補体C3を活性化型のC3aへ転換する作用を持つアディプシンだ。
今日紹介するコーネル大学からの論文はアディプシンの長期投与が本ベータ細胞の保護作用を有していることを明らかにした研究で11月号のNature Medicineに掲載された。タイトルは「Adipsin preserves beta cells in diabetic mice and associates with protection from type 2 diabetes in humans(アディプシンは糖尿病モデルマウスのベータ細胞を保護し、人の2型糖尿病を防ぐ)」だ。
アディプシンのベータ細胞長期保護作用をまず明らかにするために、この研究ではベータ細胞が失われていくdb/dbマウスに、正常あるいはdb/dbマウスの膵島を、外から長期間の観察が可能な眼の前房に移植し5ヶ月間観察、同時に導入したアディプシン遺伝子が膵島萎縮を防ぎ糖尿病を予防できるかを調べている。期待通り眼の前房への膵島移植は糖尿病発症のプロセスを反映できる実験系で、この系でアディプシンは長期投与可能で、db/db膵島のインシュリン分泌を高めるだけでなく、ベータ細胞死を防ぐことを明らかにする。また、インシュリン感受性やベータ細胞増殖には全く影響ないことも確認している。
次に細胞死が防がれるメカニズムを調べ、アディプシンはC3aの生成を介してベータ細胞のDusp26脱リン酸化酵素産生を抑制し、このシグナル系がベータ細胞維持に必要な転写因子の発現を誘導することで細胞死を防いでいることを示している。この結果は、Dusp26の脱リン酸化作用を抑えることがベータ細胞の維持を促進することを示しているが、事実脱リン酸化阻害剤NSC-87877を投与するとdb/dbマウスのインシュリンレベルは高まり、更にパルミチンによるヒトベータ細胞の障害も防ぐことを明らかにしている。
これらの結果は、アディプシンやDusp26経路がベータ細胞を保護し、変性を防ぐ新しいメカニズムの薬剤になる可能性を示している。そこで、心臓疾患の発生を追跡しているコホート研究参加者6886人を調べると、血中アディプシンの高い人は肥満になる確率は高くとも、糖尿病のリスクが低いこと、またアディプシン血中濃度と相関するSNPは糖尿病とも相関することを発見する。
以上が結果で、アディプシン、C3a、そしてその受容体、Dusp26が、ベータ細胞の保護作用がある糖尿病治療標的として考えられることを示している。アディプシンのようなアディポカインは血中濃度が高く、それ自体を投与するのは難しく、この経路を標的とする薬剤開発は簡単ではないと思うが、おそらく多くの製薬は開発を続けているような気がする。
アディプシンやDusp26経路がベータ細胞を保護し、変性を防ぐ新しいメカニズムの薬剤になる可能性を示唆
Imp;
アディポネクチン。
DM領域もまだまだ汲み尽せない謎がある領域です。