オメガ脂肪酸は発生期の神経発達に欠かせない脂肪酸で、さらに脂肪へのブドウ糖の吸収を高めてインシュリン感受性を上昇させる重要な物質で、ポピュラーなサプリメントの一つだ。しかし、これが脂肪細胞の数を増やすと言われると「え!」と驚いてしまうが、実際にはどうなんだろう。
今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、オメガ脂肪酸が繊毛に発現しているFFAR4受容体を刺激し白色脂肪細胞を増やすことを示した研究で11月27日号のCellに掲載されている。タイトルは「Omega-3 Fatty Acids Activate Ciliary FFAR4 to Control Adipogenesis (オメガ3脂肪酸は繊毛のFFAR4を活性化して脂肪生成を制御する)」だ。
この研究は最初からオメガ脂肪酸の作用を調べるというより、意外なことに脂肪細胞に分化する前脂肪細胞に繊毛を持っていることに気づいた著者らが、繊毛の機能を調べようと始めた研究のように思う。私たちも前脂肪細胞株を樹立し、長く付き合ったが、繊毛が生えているとは考えもしなかった。前脂肪細胞株を繊毛のみに発現する分子マーカーで染色すると、8割ほどの細胞に繊毛が認められ、増殖中、あるいは白色脂肪細胞へと分化が進むと繊毛は失われる。
では前脂肪細胞がなぜわざわざ繊毛を発現しているのか。この機能を確かめるため、前脂肪細胞で繊毛が形成できなくしたマウスを作成すると、体重の伸びが早い段階で頭打ちになり、調べるとほとんどが脂肪組織の量が減るためであることがわかった。すなわち、繊毛が前脂肪細胞の増殖と脂肪組織の形成に必須であることがわかる。とはいえ、脂肪代謝自体は大きく変化はないので、悪性の脂肪組織生成とは異なっている。
では繊毛にはどのような分子が発現しているのか?遺伝子発現と繊毛の有無を関連させて、FFAR4が繊毛特異的に発現しているGタンパク質共役型受容体であることを発見する。この受容体は、オメガ3脂肪酸で活性化されることがわかっているので、前脂肪細胞株をオメガ脂肪酸で刺激すると、期待通り前脂肪細胞の増殖が高まり脂肪生成が起こる。また、高脂肪食とオメガ脂肪酸を投与された若いマウスの体重は高脂肪食だけを与えた群と比べると30%以上増加する。このことから、繊毛のFFAR4を介してオメガ脂肪酸は前脂肪細胞の増殖を誘導し、これが高脂肪食に反応すると肥満を起こすことがわかった。
ただ、オメガ脂肪酸は直接脂肪の蓄積には関わらないようで、実際このシグナルではPPARなどの脂肪蓄積に関わる分子の発現はあまり上昇せず、実際には染色体の構造化に関わるCTCFの発現制御を通して、遺伝子をオープンにすることがオメガ脂肪酸の作用であることを示している。
以上が結果だが、ではオメガ脂肪酸を摂取すると太るのか?答えはYes/No(ドイツ語ではJainという)で、前脂肪組織の増殖を促すという点では太る可能性をあげるが、脂肪蓄積のスイッチを入れるのは高脂肪食など別の経路で、オメガ脂肪酸自体はインシュリン抵抗性も軽減するので、やっぱり健康には大事という結論になる。ご安心を。
オメガ脂肪酸⇒前脂肪細胞上の一次繊毛のGタンパク質共役型受容体FFAR4⇒染色体構造化に関わるCTCFの発現制御⇒遺伝子をオープン⇒脂肪細胞へ分化
Imp:
一次繊毛:Facebookで知ったのですが、東北大薬理学柳澤先生のグループが繊毛病(小頭症、小人症などの臓器不全)との関連を示唆する研究をされておられたのを思い出しました。まだまだ謎多き構造物のようです。