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12月13日 常識はずれの抗体の力(2月19日号発行予定Neuron掲載論文)

2019年12月13日

抗体は細胞の中では働かず、また全身に投与した場合中枢神経への浸透は脳血管関門により阻害されているというのが常識だと思う。もちろん、それでも

抗Aβ抗体のように脳内の病理を変化させるために使われる抗体もあるが、それでもほんの一部しか脳へ到達しないとされているし、ましてや細胞内へ到達するなどとは誰も考えなかった。

今日紹介するフロリダ大学からの論文はこの常識の全てをひっくり返す驚くべき研究で2月19日号のNeuronに発行予定だ。タイトルは「Antibody Therapy Targeting RAN Proteins Rescues C9 ALS/FTD Phenotypes in C9orf72 Mouse Model(C9orf72マウスの側索硬化症/前頭側頭型認知症をRANを標的にする抗体で治療する)」だ。

タイトルにあるC9orf72とは、遺伝的即作成硬化症(ALS)の中では最も多い遺伝的変異で、イントロンにあるGGGGCC という配列の数が増大して、センス、アンチセンス側からランダムに6種類のアミノ酸繰り返し配列(RAN ペプチド)が作られ、これにより神経変性が誘導される病気だ。

この研究ではまず、高齢者の末梢血から採取したB細胞の中から、センス側の2種類のペプチド(GAとGP)に対する抗体を作成し、これをマウスIgG2a/λクラスに変化して使っている。なぜ一般的なκにしないで、λにしたのか、よくわからないがここに秘密があるのかもしれない。

ます第一の驚きは、試験管内でRANが発現する細胞にこの抗体を加えると、何もしないで細胞内に入り、できたペプチドと結合し、さらにRANタンパク質の細胞内での処理を早める。もちろん普通抗体は細胞内に浸透しないが、これにはIgG2aに結合するFc受容体が絡んでいる。また、抗体が結合したペプチドは、抗体Fc部分を介してTRIM21ユビキチンリガーゼと結合し、プロテオソームやオートファジー経路で処理することを示している。これにより直接凝集したペプチドがプロテアソームに停留するのを防ぐことが可能になり、細胞死を防ぐことがわかった。

次に、この抗体をC9orf72からRANタンパク質を作るALSモデルマウスの腹腔に投与すると、驚くことに脳血管関門を通り、さらに抗原と結合していないフリーの抗体が神経細胞内に取り込まれて、RANタンパク質の除去を早め、神経症状を緩和することを示している。

特に毎週30mg/kgの抗体を打ち続けた実験でマウスの死亡率を強く抑制することを示しており、実際神経ないのRANペプチドの量が減っていることまで示して、臨床的にも応用可能であることを示している。

結果は以上で、現在根本治療のない患者さんにとったら素晴らしい結果だと言える。本来ならもっと騒がれてもいい研究結果ではないかと思う。ただ、私たちの常識に逆らうところがあるため、まだ疑う人も多いのかもしれない。ただ、これが正しいとすると、アルツハイマー病でのTauやあるいはレビー小体ができるシヌクレインに対しても同じ戦略が取れることになる。

とはいえ30mg/kgという濃度が必要な点、また完全に治るわけではない点も、抗体を細胞内で使うという離れ業の限界なのかもしれない。


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