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12月27日 ガンの適応力(12月20日号 Science 掲載論文)

2019年12月27日

ガンの変異を特定して、その機能を抑制する分子標的薬で治療することは、最も合理的なガン治療だと考えられている。事実、最も成功した慢性骨髄性白血病に対する分子標的薬グリベックは、この病気の制圧にほぼ成功したと言える。しかし、その後多くの分子標的薬治療が開発され、様々なガンに使われるようになって、薬剤耐性のがん細胞の出現を防ぐことが難しいことがわかってきた。

このような耐性が生まれるメカニズムだが、ガンが発生し大きくなる過程で、低い確率ではあっても様々な突然変異が蓄積されており、治療によってその中から耐性株が選ばれると考えられている。ところが今日紹介するイタリア・トリノ大学からの論文は分子標的薬に適応してガン細胞が変異が起こりやすい体勢にシフトする可能性を示唆する研究で12月20日号のScienceに掲載された。タイトルは「Adaptive mutability of colorectal cancers in response to targeted therapies (分子標的治療に対する大腸ガンの適応的変異)」だ。

この研究では分子標的薬で処理することで、ガン細胞が変異を蓄積しやすくなる性質を獲得するとする仮説に基づいて研究を進めている。まず大腸ガン細胞株にEGFに対する分子標的薬を加えることで、複製時のミスマッチ修復に関わる酵素(MMR)群の発現が軒並み低下していることを確認する。また、細胞内の修復機能を調べ、修復が低下していることを示している。

さらに念のいったことに、DNAの複製に関わるポリメラーゼも、信頼性の高いポリメラーゼから、突然変異の起こりやすいポリメラーゼにシフトすることも明らかにしている。すなわち、すべての面でDNAに様々な変異が起こりやすいように変化している。生物を目的論で考えることが間違っていることをわかっていても、ここまで見事に協調していると目的論的に考えてしまう。

残念ながら、分子標的薬処理によりなぜこれほど見事な変異しやすい細胞へのシフトが起こるのかは明らかになっていないが、この結果間違いなく変異が導入されやすくなることは様々な方法で示している。そして最後に、大腸ガンや膵臓癌細胞株を用いて、EGFに対する分子標的薬によって染色体不安定性が誘導されることを、マイクロサテライト領域の解析から確認している。

結果は以上で、実際の臨床サンプルでの確認が残されてはいるが、ガンが治療に対応して変異しやすい不安定な体質に変化し、これにより標的薬に対する耐性株を生まれやすくしている可能性が明らかになった。もしこの結果が正しければ、実際の治療にも様々なヒントが得られると思う。最も重要なのは、修復やDNA 複製の信頼度が落ちることだが、確かにこれにより耐性株が出やすくなるが、逆にガン細胞自体はDNAダメージを起こす薬剤や放射線に対する抵抗性を失うと考えられる。したがって、相同組み換えを抑える薬剤や、放射線療法の併用により、よりガンをコントロールできる可能性がある。うまくいけば、分子標的治療をより根治的な治療へと変えることすら可能になると思う。


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