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2月25日:ALSの病巣の拡大を止められるか?(アメリカアカデミー紀要オンライン版)

2014年2月25日
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ALSは家族や親戚に同じ病気がなくとも突然健康な人を襲い、運動機能が急速に失われる難病だが、現在有効な治療法はほとんどない。最近になって遺伝的な原因がはっきりしているALSについては患者さんからIPSを作って病態を解析できるようになり、少しづつではあるが光がさして来た。例えば2012年、山中さんが所長を務める研究所の井上さんがScience Translational Medicine8月号に発表した研究は大きく報道された。TDP-43分子の突然変異に起因するALS患者さんのiPSから作った神経細胞を用いて、異常TDP-43分子の蓄積を押さえる薬剤が開発できる事を示した研究だ。しかし遺伝性がはっきりしているALSはたかだか1割程度で、9割以上のALSは原因がはっきりしない弧発性の病気だ。なぜ普通の人が突然ALSに襲われるのか?原因となる分子メカニズムは何か?iPS を弧発例にどのように利用すればいいのか?など多くの問題がありそうだ。私自身もこれまで難しくて当たり前と思考停止していた所もあった。今日紹介する論文は「こういう考え方もあるのか!」と納得する私には大変面白い話だった。カナダのBritish Columbia大学のグループがアメリカアカデミー紀要オンライン版に発表した論文で、タイトルは「Intercellular propagated misfolding of wild-type Cu/Zn superoxide dismutase occurs via exosome-dependent and –independent mechanisms (正常SOD分子も折りたたみがうまく行かない場合はエクソゾームを介する経路と介さない経路の両方を通って他の神経細胞へ移る事が出来る)」と言う論文だ。私はこのグループの論文を初めて読んだが、これまでの研究を通して「弧発ALSでは、先ずSODと呼ばれる分子の中に折りたたみに失敗した分子が生まれ、次にこの失敗分子が正常分子の折りたたみを阻害することで、失敗分子が細胞に蓄積し、細胞死に至る」と言う仮説を出しているようだ。今回の研究では、この折りたたみに失敗した分子が蓄積して細胞が死にかけると、失敗分子が隣の細胞に2つのルートを通って取り込まれ、新しい細胞の中で正常SODの折りたたみを阻害して細胞死を誘導することが示されている。この結果は、なぜ神経細胞死が隣の細胞へと伝播するのかと言う問題と、遺伝的異常のない人でもこの病気が発症し急速に悪化する事を良く説明しているように思う。このメカニズムは既に狂牛病として知られるプリオン病で示されたメカニズムで、条件が揃えばSODもプリオンの様な性質を持つ事を示す恐ろしい結果だ。しかしこの研究では一筋の光も示されている。細胞から細胞へと失敗SODが伝播する時、この分子に対する抗体が存在すると、正常細胞へ取り込まれる過程をほぼ完全に抑制できると言う結果だ。この話はまだ細胞レベルの事で、身体の中の運動神経でも同じことが起こっているのか結論するにはまだまだ研究が必要だろう。ただもしこのシナリオが正しいとすると、既に紹介したように、脳脊髄と血管の間のバリアーを超えて抗体を浸透させる技術は既に存在することから、抗体を使った治療は十分可能性がある。同じ抗体がALSの進行を止めるかどうかが出来るだけ早く臨床現場で確かめられる様研究が進む事を期待したい。

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