アルツハイマー病(AD)はアミロイドAβの蓄積で引き金が引かれることは広く認められ、多くの薬剤開発がこの蓄積を抑えることに向けられてきた。しかし昨年11月Aβの著しい蓄積があるのに全く認知症状が出ないApoE3変異を持つ70歳の女性の症例報告を紹介したが(https://aasj.jp/news/watch/11677)、症状や予後と比例するのは細胞内でのTauの蓄積とする考えが一般的になってきた(西川伸一のジャーナルクラブで紹介している:https://www.youtube.com/watch?v=SGUDm0h184c)。幸い我が国をはじめ様々な機関でTauをイメージ化するためのPETに使う化合物が開発され、リリー社のFTPは2018年第3相の治験が終わり、実際の臨床利用が始まった
今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、この新しいFTPを使ってADの予後を予想できるか調べた研究で1月1日号のScience Translational Medicineに掲載されている。タイトルは「Prospective longitudinal atrophy in Alzheimer’s disease correlates with the intensity and topography of baseline tau-PET (アルツハイマー病の萎縮経過をTau-PET の場所と程度から予想できる)」だ。
この研究ではADの初期症状が現れた患者さん32人について、MRIで脳の解剖、Aβ-PETでアミロイドの沈着を、そしてFTPを用いたTau-PETでTauの蓄積を測定し、その後15ヶ月後にMRIで脳の萎縮の進行、症状の進行を調べている。15ヶ月というのは短い様に思うが、FTPを用いるTau-PETが2018年に利用できるようになったことを考えると、最速で研究を進めていると言える。
結果は予想通りで、Aβ-PETと脳の萎縮、さらにはその後の萎縮進行は弱い相関しか見られない。一方、Tau-PETで測定されるTauの蓄積はMRIでの脳の萎縮と強い相関を示し、15ヶ月後の進行の程度とも相関する。
さらに、Tau-PETで蓄積が最も強い場所が、萎縮も最も強いことが明らかになり、Tau蓄積が細胞の変性を反映していることを明らかにしている。また、この検査でTau蓄積が同じ程度に認められる場合、年齢が若い人ほど萎縮が強く、また進行も早いことが明らかになった。
結果は以上で、結論自体はこれまでの解剖例の検討や、脳脊髄液のTsu検査、あるいは実験的なTau-PETのデータから予測されてきたことの確認と言える。また、研究スタート時からTau-PETとMRIによる萎縮検査が一致しているので、わざわざ高価なTau-PETが必要かこの研究からは明らかでない。
結局Tau-PETを使えるようになったのが1年前なので、現時点ではこれで精一杯だろう。しかし、今後特に研究目的での利用が広がることで、症状が出る前にTauを検出して、Aβ蓄積との関係を調べたり、蓄積と萎縮の伝搬の経過を調べたり、実際の患者さんを使った研究が進むと期待される。また、難航している薬剤の開発も、より臨床予後と相関する評価系が生まれることで、新しい展開が見られるように思う。その意味で、新年号にふさわしい論文と言えるだろう。
難航している薬剤の開発も、より臨床予後と相関する評価系が生まれることで、新しい展開が見られるように思う。
Imp:
Tau-PET、新兵器登場ですね。病勢との相関が強い検査法の登場で新薬開発への期待が膨らみます。