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1月10日 KRAS阻害剤に対する耐性の出現の様式(1月16日号 Nature 掲載論文)

2020年1月10日
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癌研究分野での昨年の大きなトピックスの一つは、アムジェン社が開発した新しいKRAS(G12C)阻害剤で、11月に論文を紹介するとともに(https://aasj.jp/news/watch/11638)YouTubeでも詳しく解説した(https://www.youtube.com/watch?v=xOe26eCpeoo)。ただ、この論文で感じたのは、RAS阻害という癌治療の夢が一部でもかなったとしても、他の薬剤と比べても耐性がでやすいのではという点だった。事実、11月に紹介した論文でも、KRAS阻害剤と他の抗がん治療をどう組み合わせれば有効かという点に焦点が絞られていたように思う。

今日紹介するスローンケッタリングがんセンターからの論文は、まさにG12C変異を持つ癌に対する阻害剤に対する耐性がどのように発生するか解析した研究で1月16日号のNatureに掲載予定だ。タイトルは「Rapid non-uniform adaptation to conformation-specific KRAS(G12C) inhibition (KRAS(G12C)阻害剤に対する多様で急速な適応)」だ。

この研究ではまずG12C変異を発現するがん細胞をARS1640阻害剤で処理し、72時間までの短い時間での細胞の反応をsingle cell trascriptomeで調べている。この結果、細胞の反応はおおきく2つの経路に分けられ、一つは静止期へと移行し、短期的には問題にならない経路と、一度抑制されるがすぐに活性化する経路に別れることがわかった。またこの差をp27分子を用いた静止期細胞を検出する方法でも確認でき、阻害剤にも関わらず増殖を始める細胞は静止期スコアが低いことを確認している。この結果は、抗がん剤への耐性を調べるときに、single cell transcriptomeが重要な方法になることを再確認させた。

この一度抑制された後増殖する適応メカニズムを明らかにすべく、クリスパーを用いた遺伝子ノックアウトスクリーニングで、阻害剤の効果を高める分子のリストを作成している。このリストの中から、この研究では上皮細胞増殖因子HBEGFと細胞分裂に関わるAURKに絞って作用メカニズムを探っている。

EGFを培養に加える実験から、EGFが適応力獲得期に働いていること、また阻害剤を用いた実験から、阻害剤存在下では新しいRASが転写され、EGFシグナルが存在すると、阻害剤の作用をくぐってRASが機能し、耐性がん細胞が出現することを明らかにしている。

一方、AURKについては、KRASと複合体を形成してシグナル伝達を安定化させることで、KRAS阻害剤に対する耐性出現を助けている可能性を示唆している。そして、AURK阻害剤をKRAS阻害剤と同時に使用すると耐性ができにくくなることも示している。

結果は以上で、RAS阻害がRASの転写を誘導し、新たに誘導されたRASが阻害剤の作用をくぐって働く可能性は、たしかにこの阻害剤の問題を明らかにした重要な結果だと思う。結局現時点で開発可能な阻害剤が、RAS との親和性は高くないが、共有結合によってRASに結合することでその分子の機能を抑制する作用機序を持つからだろう。すなわち、新しいRASには阻害剤より先にGTPが強く結合して機能してしまうようだ。幸いアムジェンの新しい阻害剤は、今回用いられたARS1640よりは高い親和性を持つと思われるので、耐性の出方は遅いとは思うが、しかし同じことは必ず起こるだろう。この問題を解決する意味で、この研究の意義は大きい。

  1. okazaki yoshihisa より:

    EGF:適応力獲得期に働いている。KRas阻害剤存在下
    ⇒新しいRASが転写され、EGFシグナルが存在すると、KRas阻害剤の作用をかいくぐってRASが機能⇒KRas耐性がん細胞が出現。
    細胞分裂AURK⇒KRASと複合体を形成してシグナル伝達を安定化させ、KRAS阻害剤に対する耐性出現を助けている可能性を示唆。
    Imp:
    single cell transcriptomeにて解明された機構。ガン細胞内に蜘蛛の巣のごとく張り巡らされた分子間ネットワークの一端が明らかに。細胞内の遺伝子・分子間ネットワークの変化によって細胞の性質が変化する。こうしたネットワークの推定は技術的には可能なのでしょうか?

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