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2月27日朝日新聞記事(野中):関節リウマチ「主犯」を特定 大阪大、根治薬開発に期待

2014年2月28日
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私は基礎に移った時、免疫学の研究から始めた。その後、熊本大学時代までは免疫関係の学会に出席していたが、京大に移ってから免疫学とは疎遠になった。しかし、免疫システムは進化の究極にあり、その多様性は興味が尽きない。現在もなお、これまでの考えを覆される論文が多く生まれている。例えば、Nature誌1月9日号に掲載されたゾウザメの全ゲノム解明もそうだ。最も原始の顎口類、ゾウザメにはCD4陽性T細胞を分化させ利用するために必要な全ての分子が欠損している事が明らかになった。ほとんどの脊髄動物にとって、このT細胞は、我々にはクラスIIの組織適合抗原分子と抗原の複合体を認識するために必須のシステムだが、この分子無しにどう抗体が作られるかは新しい問題だ。ただ心配なのは、この話を知り合いの免疫学者にしても、ほとんどこの論文に気づいていない。進化研究となると無関係として済ますほど日本の免疫学者は忙しいのかもしれない(裏返せば私が暇)。27日朝日新聞野中さんが紹介した荒瀬さんの仕事もこのクラスII分子に関わる研究で、アメリカアカデミー紀要オンライン版に掲載された。タイトルは「Autoantibodies to IgG/HLA class II complexes are associated with rheumatoid arthritis susceptibility (IgGとクラスII、HLA結合体に対する自己抗体はリュウマチ性関節炎に関連している)」だ。この仕事は少なくとも私のこれまでの考えを覆した。少し込み入った話になるが、クラスII-HLA抗原の役割は、細胞内に取り込んだ外来のたんぱく質を分解した後の小さな断片を銜えこんで、細胞表面に提示する事で、CD4陽性T細胞に外来抗原を認識させる事が役目だ。荒瀬さんの仕事は、リウマチの関節に存在するB細胞は、自らが作る抗体分子の全体を、分解する事なくそのまま銜えこんで表面に運び提示することができるという全く新しい発見だ。このHLAに結合したままのIgGが今度は他のB細胞を刺激して、自己のIgGに反応する自己抗体が出来る事が、リウマチでIgGに対する自己抗体が出来る原因だと結論している。もちろん普通のIgGは体中に大量に流れているし、また正常B細胞で作り続けられているがHLAと結合する事はない。まだ良くわからない原因でたんぱく質の折りたたみがうまく行かなかったIgGだけでこれが起こると言うのがこの研究のポイントだ。患者さんで調べたとき、B細胞上にIgGがそのまま提示されている事とリウマチ関節炎とは密接に関わっており、普通の人のB細胞で同じことはみられない。もちろんこれがリウマチの原因か、あるいはリウマチで起こる症状の一つかはまだわからない。もちろん荒瀬さんは後者の可能性が実際に起こっていると疑っており、新しい治療の可能性も生まれると期待している。これまでたんぱく質がうまく折り畳まれない事で起こる病気を幾つか紹介して来たが、荒瀬さんの言う通りなら、分子シャペロンなどを使う事で病気のサイクルを断ち切れるかもしれない。面白い仕事だと思った。野中さんの記事は簡潔で、内容を十分伝えている。ただ、これが「主犯」と特定するにはまだまだ時間がかかるだろう。調子が強すぎると感じた。

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