以前のジャーナルクラブで紹介した様に(https://www.youtube.com/watch?v=SGUDm0h184c)、アルツハイマー病の引き金は切断されたアミロイドβ(Aβ)の凝集塊の蓄積による場合が多いと推定されるが、実際の神経視野症状にはタウタンパク質のリン酸化と凝集が関わると考えられている。もしこれが正しいと、Aβとタウのリン酸化をつなぐメカニズムを明らかにする必要がある。
今日紹介するアラバマ大学からの論文はまさにこの問題に取り組んだ研究で、もし正しいならもう少し騒がれてもいい気がすると思う結果で、1月15日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「β-amyloid redirects norepinephrine signaling to activate the pathogenic GSK3β/tau cascade(βアミロイドはノルエピネフリンシグナルをタウからGSKβの以上シグナル経路を活性化する)」だ。
これまでアルツハイマー病(AD)で睡眠が障害されたり、攻撃性が高まる症状と、ノルエピネフリン(NE)受容体の活性化が関係するのではと考えられてきたが、今日紹介する論文はこの活性化に凝集Aβが関わることを示している。
まずAD患者さんの剖検例から脳組織を採取し、NE受容体活性が上昇していること、またNE受容体刺激剤を投与された患者さんでは、認知機能が低下していることを示している。ただ、統計学的に優位とはいえ、重なりは多く、人間のデータだけでははっきりしない。
そこでAβを発現させたマウスADモデルの脳でNE受容体刺激剤を加える実験を行うと、ADマウスの方が高い反応性を示すこと、またAβを除去するとこの反応が正常化することを示している。
ではAβが直接NE受容体に結合するかが問題になるが、凝集型のAβが受容体と直接結合すること、さらにはNE受容体のどの領域と結合するかも特定している。すなわち、Aβ凝集体はNE受容体に結合して活性化の閾値を低下させる。
そしてこの研究のハイライトだが、Aβ凝集体とNEの両方が働く神経細胞ではGSKβの活性化を介してタウタンパク質のリン酸化が起こることを示している。また、ADモデルマウスを用いて、Idazoxanと呼ばれるNE受容体阻害剤を8週間投与しその効果を調べ、この薬剤はAβの凝集については何の影響もないが、Aβの凝集が増えた脳でも、GSKβの活性化とタウタンパク質のリン酸化が低下していることを示している。さらに、これは細胞レベルだけでなく、マウスの認知機能のテストでも、著しい改善が見られることを示している。
結果は以上で、Aβ凝集体と結合したNE受容体の活性化閾値の上昇がTauリン酸化、細胞死の引き金であることを示した素晴らしい仕事だと思う。ただ、人間のデータは弱いので、疑う人は多いと思う。私としては、人間にも利用できる正しい結果であってほしいと願っている。