チェックポイント治療(CPT)が始まってわかったことは、私たちの免疫システムが自己に対して牙を剥かない様に何重ものチェックポイントが設定されていることだ。ノーベル賞を受賞したCTLA4やPD1だけでなく、ポジティブ、ネガティブ合わせて多くの分子がこの調節に関わることが知られている。
今日紹介するダートマス大学とベイラーカレッジの共同論文はこの中の一つVISTAの機能について調べた研究で1月17日号のScienceに掲載された。タイトルは「VISTA is a checkpoint regulator for naïve T cell quiescence and peripheral tolerance(VISTAはナイーブT細胞の静止期とトレランスの調節分子)」だ。
この論文を読むまでVISTAのことはおとんど何も知らなかったが、B7ファミリー分子でチェックポイント分子の一つと言える。ただ、免疫反応の途中で反応細胞を疲弊させるPD1のように抗原刺激後発現するのではなく、まだ刺激を受けていないT細胞に広く発現していることが知られている。
これまでVISTAノックアウトマウスは自己免疫病になることが知られており、チェックポイント分子であると考えられていたが、ナイーブT細胞での機能はまだはっきりとしていなかった様だ。この研究ではVISTAノックアウトT細胞をsingle cell trascriptomeで調べ、VISTAが欠損すると静止期のT細胞が消失し、活性化された記憶タイプのT細胞になること、また転写レベルでVISTAノックアウトでは静止期の維持に関わるKLF2などを含む様々な分子の発現が低下することを発見する。
次に、ATAC-seqを用いてVISTAの下流で変化する遺伝子のクロマチン構造を調べ、静止期を維持する様々な分子のクロマチン構造がVISTA刺激によりonになることを明らかにする。すなわち、VISTAは免疫反応の最初に、抗原により刺激されたT細胞が強い反応を起こすのを、クロマチン構造の修飾を変化させることで、量依存的に抑えていることが明らかになった。
最後にVISTAを活性化するモノクローナル抗体を作成し、この抗体でナイーブT細胞を抗原存在下に刺激すると、T細胞がアポトーシスを起こして死滅し、生体内で自己抗原に対して反応が起こるのを止めることを明らかにしている。作成が難しいのか、抑制的に働くモノクローナル抗体は作成できていない。
以上の結果から、VISTAが抗原刺激初期のチェックポイント分子で、細胞を静止期に止めるとともに、抗原シグナルに応じて細胞死を誘導することを明らかにし、その後CTLA4、PD1と異なるステージを調節するチェックポイント分子が使われる階層性を持つことを示している。
また、活性化型の抗体を使った研究は、今後自己免疫を抑えるための手段としてこの抗体が使える可能性を示唆している。あるいは、臓器移植時にこの抗体でVISTAを刺激しトレランスを誘導できるかもしれない。一方、もし可能なら抑制型の抗体も作り、免疫初期段階でチェックポイントを外してがん免疫をより高めるという研究も可能になるかもしれない。しかし、免疫はなんと重装備のシステムなのか、驚きを禁じ得ない。
VISTA:
CTLA4、PD1と異なるステージを調節するチェックポイント分子が使われる階層性がある
Imp:
自然のオートマトン(=細胞)が、環境入力⇒情報計算⇒意思決定を実行する経路は蜘蛛の巣を連想させます。