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1月24日 生きたAsgardアーキアの分離(1月15日 Nature オンライン版掲載論文)

2020年1月24日
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昨年サイエンス誌の選んだ2019年のブレークスルーの一つに、我が国の海洋研究開発機構および産総研がAsgardアーキアの培養に成功したことが選ばれたことを紹介した(https://aasj.jp/date/2019/12/21)。この時はまだ正式な論文は出ておらず、プレプリントが発表されただけだったが、ついに1月15日Natureオンラインに発表された。タイトルは「Isolation of an archaeon at the prokaryoteeukaryote interface (真核生物と原核生物の中間にあるアーキアの分離)」だ。

海洋の浮遊している生物のDNAを網羅的に解析するメタゲノム解析が進み、真核生物と原核生物を橋渡しするAsgardアーキアの存在がスウェーデンのグループによって確認されたのは2017年のことだ(https://aasj.jp/news/watch/6362)。しかし今日紹介する論文を発表した井町さんたちは、なんとそのずっと前2006年から深海沈殿物から生きた細菌を分離しようと試みていた。

最初から成算があったのかわからないが、沈殿物をメタンだけが供給されたバイオリアクターでなんと5年半培養を続け、様々な生きた細菌が増殖しているのを確認する。こうして培養されたバクテリアの集団を、今度はバクテリアの増殖を防ぐ抗生物質を加えた単純な培地で1年以上培養、ちょっと濁りが出てきた試験管の培養、継代を続け、始めてから12年してついに、メタノゲニウムと生きたアーキアだけがゆっくり増殖する培養に到達している。

12年という時間には本当に頭がさがる。しかし、そのおかげでゲノムから推察するだけではない、生きたアーキアが得られ、MK―D1と名付けている。MK-D1は自律的に生存できないため常にメタノゲニウムの存在が必要で、ゲノム解析からわかる代謝システムから、共生しているバクテリアからアミノ酸を取り込んで、エネルギー源や有機物合成に利用している。

何よりも重要なのは、MK-D1ゲノムが、他の原核生物と比べ最も真核生物に近い点で、ついにメタゲノム解析から推定されていたAsgardアーキアが分離されたことになる。

実際、真核生物に特徴的な細胞骨格分子などがMK-D1には存在している。しかし驚くことに、細胞内小器官は存在しない、共生で生きる様進化した極めてシンプルな生物であることがわかった。

アクチンなど原核生物にはなかった細胞骨格のおかげで、代わりに長い突起を細胞から出しており、また細胞小胞を出芽させることができる。この特異な構造が、おそらく共生や、細胞毒の酸素を処理してくれるバクテリアとのコミュニケーションに重要な役割を演じていると著者らは考えている。

すなわち、真核生物の誕生はリン・マーギュリスが考えた様に、アーキアがバクテリアを飲み込むのではなく、触手が巻きついた様な構造がまずでき、それが一つの細胞へと変化することで進むことを示している。

他にも面白い話はまだまだ出てきそうだが、メタゲノムで開いた入り口からついに家の中に入ることができたと言った素晴らしい研究だと思う。何よりも、次は試験管内で真核生物を作る研究が可能になる。期待したい。