精子と異なり、卵子は成熟してから新しくリクルートされることはなく、発生過程で作られた卵子を生理サイクルのたびに少しづつ使っていく。このため、卵巣の中では常に静止期の卵子とともに、活性化された後の卵成熟過程から、排卵後の卵胞まで、多くのステージが共存している。
今日紹介する北京の中国アカデミー動物学研究所からの論文は、single cell transcriptome解析を用いて卵巣の老化を探った研究で2月6日発行のCellに掲載された。タイトルは「Single-Cell Transcriptomic Atlas of Primate Ovarian Aging(サルの卵巣老化のsingle cell trascriptome解析)」だ。
この研究では人間の代わりにサルを用いて、閉経期前後の卵巣の老化について調べている。これまで卵巣のsingle cell trascriptomeに関する研究をあまり目にしたことがないが、恐らくこれは卵子の大きさが他の細胞と比べて大きいということに起因するかもしれない。このグループは、卵子と他の細胞をバラバラにした後、分けたあと、single cell trascriptomeを調べている。結果、卵子4種類に加えて、顆粒細胞や、間質細胞、血管、平滑筋、NK、マクロファージなどを分別することに成功している。
特に重要なのは、C1からC4までの卵子成熟で見られる大きな変化で、それぞれのステージで特徴的な遺伝子ネットワークが活動している様子がわかる。これは当然で、この間に複雑な減数分裂を成し遂げる必要がある。一方、未熟卵子は静止期を維持する必要がある。
意外だったのがミトコンドリアの活性が未熟な卵子で高いことで、じっとしていてもエネルギーが必要なのは、脳と同じなのかもしれない。その後成熟が始まるとまず翻訳が高まり、減数分裂体制へと入っていくのがわかる。
ただこのこと自体は、だいたいわかっていることで特に新しいことはない。この研究の主目的は、このような様々なステージ、種類の細胞が共存する卵巣で、老化はどう起こっているのか、細胞個別に調べることだ。single cell transcriptomeで老化を調べるという着想は、卵巣だから必要性がわかったとも言えるが、今後老化の分子プロセスを調べる時、これがが重要なテクノロジーになること示唆している。
まず卵子についての結果だが、全てのステージで遺伝子発現のパターンが変わる、すなわち老化は全てのステージではっきりと検出できる。ただ、同じ卵子でもそれぞれ上下する遺伝子の種類は違う。面白いのは、活性酸素を抑える経路の遺伝子の低下が最もはっきりするのがC2ステージで、今後閉経の生物学を考える上で重要だと思う。
同様に卵子活性化に重要な顆粒細胞でも老化に伴う変化が起こるが、卵子と違い最もはっきりしているのが、活性化酸素を抑える遺伝子の低下と、アポトーシスの経路に関わる遺伝子が上昇している。
人間の顆粒細胞でも調べているが、これは付け足しで、以上が結果の全てだと言える。結局予想通りの結果であまり驚きはないが、今後様々な老化予防策により、この基本構造がどう変わるか面白いテーマができたと思う。また、組織と細胞という永遠の問題を、老化というプロセスを対象にsingle cell trascriptome調べようとしたことは評価していいように思う。
生殖補助医療では、卵子の凍結保存もおこなわれているようです。
凍結保存の行為自体は、卵子老化に影響がないのか?
少し気になりました。。。