動物の行動研究というと、刺激に対して反応する脳細胞の活動を調べることと同義だが、動物であっても脳内ではいくつかの可能性を考えながら行動が選ばれているのは間違いない。このこれまでの経験に基づいて未来を予想する脳のメカニズムを動物で研究するのは容易でない。
今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文はみなさんにおなじみの場所を記憶する細胞の活動を用いて、行動が決まるまえにこれらの細胞の活動を組織化している脳のリズムについて明らかにした研究で2月6日号のCellに掲載された。タイトルは「Constant Sub-second Cycling between Representations of Possible Futures in the Hippocampus (可能な未来を表象する海馬細胞同士の秒以下の単位で進む持続的サイクル)」だ。
この研究でもGPS細胞として有名な海馬の場所細胞を用いている。すでにおなじみのように、右か左かを選ぶ迷路の場合、右を選んだ後活性化する細胞と、左を選んだ時に活性化する細胞に別れる。ただ、迷路全体を自由に動いているときに海馬の活動を細胞レベル、集団レベルで記録し、これをミリ秒単位の時間軸にプロットすると、驚くことに125msを単位とする時間サイクルの中で、右側と左側を表象する細胞が交互に興奮していることに気づく。
もっと驚くのは、細胞の集団レベルで見ても、8Hzサイクルの中で右細胞と左細胞が交互に興奮しながらラットは進み、最後にどちらかが選ばれると右なり左なりの細胞だけが持続的に興奮するようになる。
この研究のハイライトはこの発見で、要するに行動が決まるまでは、どこかからくる8Hzの脳のサイクルに合わせて、右左と交互にスイッチが入り、右の細胞は全てが同じフェーズで活動し、左の細胞は全て異なるフェーズで興奮している。さらにいうと、「どちらにしようかな」と、右左と考えがコロコロ変わりながら、最後に行動が選ばれるというプロセスが明らかになった。
詳細は省くが、頭の動きや、動きの方向性など、それに関わる神経活動は全てこの8Hzのサイクルによって組織化されている。すなわち、選ばなかった行動も、未来の可能性として細胞レベルで頭の中で表象され、しかも表象の提示はランダムでないという結果で、感動する。
神経集団で見てもこのサイクルは捕まるので、脳波計なら人間でも研究は可能だろう。もともと8Hzはθ波として抽出されており(人間の場合このサイクルが8H稼働かはわからないが)研究も可能な気がする。とくに、この全体のリズムを決めるサイクルがどこから出てくるのか、興味が尽きない。
???⇒8Hzの脳のサイクル⇒、右左と交互にスイッチが入る⇒「右左どちらにしようかな」と考えがコロコロ変わり⇒最後に行動が選ばれる
I mp
1:生命に自由意思はあるのか?
この実験で思い出したのが、1983年にアメリカの生理学者ベンジャミン・リベット先生の研究です。
最終的な動作から時間を遡ると
「動作」⇒約0.2秒前に「意識的な決定」を表すシグナル出現⇒「意識的な決定」を示す電気信号の約0.35秒前に、それを促す無意識的な「準備電位」が出現する。
生命体が自由意思で決めていると感じている、行動=意思決定ですが、その実体は無意識に操られた“機械的”なものではないか??との疑念を想起させる実験です。つまり、自由意思なるものは存在しない。真実はいかに?
2:8Hzの脳活動サイクルの起源は?
ニューロンとグリアの共同作業で創発されているのかも?さらに元を遡ると、それぞれの細胞内の“分子アルゴリズム”から湧出している。妄想が膨らみます