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2月13日 臍帯血から抗腫瘍キラー細胞を作成する(2月6日号 The New England Journal of Medicine 掲載論文)

2020年2月13日
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キラー細胞を移植してガンを制圧する多様な試みが治験段階に入ってきた。1昨日はCRISPR/Cas9という流行りの遺伝子操作を用いて、キメラ抗体/T細胞受容体(TCR)ではなく、ガン抗原特異的TCRを発現したキラーT細胞を調整し治療に用いた第一相治験研究を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/12364)。この研究では、導入したT細胞の特異的発現を高める目的でホスト側のTcRをCRISPRでノックアウトしているが、同じ方法は一旦作れば誰にでも使えるCAR-T細胞作成のためにも利用されている。すなわちキラー細胞のTCRが存在せず、導入したガン抗原特異的受容体だけが発現する場合、組織適合性のない人でも、ガン以外は攻撃されることがないからだ。CRISPRではないが、他の遺伝子編集法でTCR遺伝子などをノックアウトしたキラー細胞はすでに臨床治験が行われている。ただ、ちょっと考えると、様々な遺伝子をノックアウトした細胞となるとコスト膨大な額になるのではと心配する。

そこでもう一つの方法として、もともとTCRを発現していないが、キラー活性のあるNK細胞にガン抗原を認識するキメラ受容体を導入し、組織適合性を気にせずガン治療に用いる方法だ。今日紹介するヒューストンにあるMDアンダーソン・ガン研究所からの論文は、CD19を発現したリンパ系腫瘍に対するCAR-NK治験の報告で、2月6日発行のThe New England Journal of Medicineに掲載された。タイトルは「Use of CAR-Transduced Natural Killer Cells in CD19-Positive Lymphoid Tumors (キメラ抗原受容体(CAR)を導入したナチュラルキラー細胞によるCD19陽生リンパ系腫瘍の治療)」だ。

現在行われているCAR-T治療と同じで、この研究でもCD19を認識する抗体とTCRを合体させたキメラ受容体(CAR)を用いているが、臍帯血から調整したNK細胞に導入している。同時に、NK細胞の増殖を高めるためのIL-15および、問題が起こった時に移植した細胞を殺すための細胞死遺伝子まで詰め込んでいる。

これを最初は臍帯血と組織適合性がマッチした患者さん、後からマッチしていない患者さんに注入し、経過を見ている。副作用だが、移植のためにホストのリンパ球を除去する処置を行なっているので、どうしても白血球減少症があること、そしてCD19陽性のB細胞の数が低下すること以外は、ほとんど大きな副作用はない。CAR-Tの場合、急にガン細胞やB細胞が死ぬことで起こる副作用があるが、これもほとんどないという結果だ。従って、第1相試験の安全性の問題はクリアしている。

さて治療効果だが、11患者さんのうち8人で明らかな反応が見られ、7例では完全に腫瘍が抑えられたという結果だ。これを裏付けるように、移植したCAR-NKは体の中で増殖し、しかも1年近く生存することも明らかになった。

以上が結果で、めでたしめでたしだが、なぜか全ての患者さんでCAR-NK治療に続いて、一般的リンパ系腫瘍に対する治療を行なっている。従って、CAR-Tのようにこの治療だけでガンを抑えきれるかは明確ではない。

以上の結果は、あらかじめCAR遺伝子を導入したNK細胞を臍帯血から準備しておいて、組織適合性を気にせず全ての患者さんの治療に使える安価なCARキラー細胞の調整法に道を開いたように思う。このように、一度作れば誰にでも利用できる細胞をOff Shelf細胞と呼ぶ。様々な方法が競い合うことは、開発側にとっては気が気ではないと思うが、治療を待つ側からは大歓迎だと思う。

  1. okazaki yoshihisa より:

    もともとTCR発現(-)+キラー活性(+)臍帯血由NK細胞を加工する
    (組織適合性を気にせずガン治療に用いることが可能になる=Off Self細胞)
    1:ガン抗原(CD19)を認識するキメラ受容(CAR)を導入する。
    2:、NK細胞の増殖を高めるためのIL-15+問題が起こった時に移植した細胞を殺すための細胞死遺伝子まで導入する
    Imp:
    CAR-NK細胞療法ですね。iPS細胞療法など、細胞を薬として使用する“細胞治療”の流れは変わりそうにないですね。ヒト対照の臨床試験が、続々と開始され

                

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