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2月15日 プロバイオを用いたチェックポイント治療の開発(2月12日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2020年2月15日
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2019年、最も強く印象に残った論文の一つが、ラマで作らせた抗CD47抗体遺伝子を導入したバクテリアをガン局所に注射してガン免疫を高めるという方法の開発だ(https://aasj.jp/news/watch/10496)。この背景には、CD47をカバーしてやるとガン細胞が貪食されやすくなること、バクテリアをガン局所に注射することで抗体の全身への影響が軽減されること、そして抗体が一本のペプチドからできているラクダ科の動物の抗体はバクテリアで生物活性を保ったまま合成することができるという、生物学的知識が存在している。

私が最も評価したのは、方法が変わっているから面白いというのではなく、この方法にはガンの抗体治療を劇的に安価にする可能性があるからだ。すなわち、一旦作成したバクテリアは安定にしかも安価に増殖させることができる。おそらく、タンクで抗体を作る現在の方法と比べれば、パテント料を除けばコストを限りなく低下させることができる。とすると、PD-1やCTLA-4に対する治療法もできないだろうかと期待していた。

今日紹介する論文は昨年7月に紹介した論文と同じグループからで、チェックポイント治療の本丸PD-L1とCTLA-4に対するラマ抗体を用いてガンのチェックポイント治療が可能か検討した論文で2月12日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Engineered probiotics for local tumor delivery of checkpoint blockade nanobodies (腫瘍局所へチェックポイントナノ抗体をデリバリーできる遺伝子操作プロバイオ)」だ。

この方法の最大の問題はラマの抗体が必要なことだが、CTLA-4とPD-L1に対する抗体をデータベース(RCSB PDB)から見つけ出し、この抗原結合部位の遺伝子をバクテリアに導入し、それぞれの抗原に結合することを確かめ、ナノ抗体と呼んでいる。

研究では、局所投与した時最も長期間抗体を作り続けてくれる遺伝子導入の条件を検討し、プラスミドではなく大腸菌のゲノム上で、大腸菌の密度を感知して転写される1つのオペロンとして抗体を組み込み、最終的に1コピーの抗体遺伝子を溶菌分子とともに1つのオペロンとして組み込まれたバクテリアが局所で最も多くの抗体を産生することを確認している。前回紹介したシステムより、かなり進歩しており、また大腸菌が抗体遺伝子を欠失する危険性も低下している。

あとは大腸菌が期待通り溶菌して抗体を遊離してくれるか、副作用はないか、そして実際に移植されたガンに対する免疫が成立するかを詳しく調べているが、局所だけで抗体がガンに作用するという特殊な状況なので、なぜ抑制性T細胞が低下して、キラーなどのエフェクターの反応が高まるのかなど詳細については、今後臨床応用の過程で詳しく調べる必要があるだろう。

いずれにせよ、局所に投与するだけでマウスに移植したガンの増殖を抑制し、生存を伸ばすことができる。また、2箇所に移植して、片方だけにバクテリアを注射すると、注射していない方のガン細胞の増殖も抑制され、全身の免疫が成立していることがわかる。しかも都合のいいことに、ガンが消えるとバクテリアも消える。また効果が弱い場合も、サイトカイン遺伝子を加えることで効果を高めることができることも示している。

驚くのは、局所投与だけでなく全身投与しても、なぜかバクテリアはガン組織に取り込まれ抗腫瘍効果を発揮する。ここまでくると、本当かと少し心配になるが、論文はめでたしめでたしで終わっている。

最初に述べた治療コストのことを考えると、今後も期待したい技術だが、長期間にラマ抗体やバクテリアに対する免疫ができないかなど臨床応用に向けた問題を克服する必要があるだろう。とはいえ、材料自体は完成している点で臨床研究へのハードルは低いように感じる。このグループは今後も注目したい。

  1. okazaki yoshihisa より:

    論文ワッチ2月11日号、2月13日号でも、がん免疫療法が取り上げられましたが、“哺乳類の遺伝子操作免疫細胞を使う”という点で、コスト高、品質管理etcの問題が頭をよぎります。コスト削減ideaとして、ラマ抗体+サイボーグ大腸菌法は魅力的です。
    全身投与された大腸菌がガン局所に集まるのは、ガンが醸し出す“免疫抑制環境”が居心地がよいからなのかもしれません。

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