3月7日:遺伝子ノックアウトによるAIDS治療 (3月6日号The New England Journal of Medicine掲載論文)
2014年3月7日
細胞の遺伝子操作の中でも、持って生まれた遺伝子を改変するのは最もハードルが高い。しかし最近になって、ここでも紹介して来たCRISPRを始め、ハードルを低くする方法が開発されて来た。その中の一つがZincFingerNuclease(ZFN)と言う酵素を使う方法で、基礎研究では広く利用されている。今日紹介する論文は、この方法をAIDSの根治に使えないかを試みるペンシルバニア大学などの第一相の臨床研究で、3月6日号のThe New England Journal of Medicineに報告された。タイトルは「Gene editing of CCR5 in autologous CD4 T cells of persons infected with HIV (HIV感染自己CD4 T細胞のCCR5遺伝子改変)」だ。どうして遺伝子改変でエイズが治せるのか?HIVはCD4T細胞の発現するCCR5という受容体を通って細胞内に侵入する。エイズになりにくい方の遺伝子解析から、この分子をコードする遺伝子に32塩基対の欠損があるとエイズビールスが侵入しにくい事がわかっている。また、ベルリンのエイズ患者さんが白血病にかかった際、この突然変異を持ったドナーから骨髄移植を受けてエイズがなおってしまったと言う例が報告されている。このため、骨髄幹細胞の遺伝子を改変して患者さんを治そうとする方向の研究がこのZFNを用いて進んでおり、2010年7月号のNature Biotechnlogyに報告されていた。そして今回、骨髄幹細胞ではなく患者さん自身のCD4T細胞のCCR5分子をエイズ抵抗性にする欠損を遺伝子に導入し、もう一度患者さんに戻すと言う臨床治験が行われた。12人の患者さんに遺伝子改変された自己細胞を一回だけ注入し、その後の経過を2群にわけて、1群は経過を見るだけ、もう1群はエイズ薬を途中で止めてビールスが上がってくるかどうかを調べている。これは第一相試験なので、先ず安全性が大事だ。一人の患者さんで、細胞注入後の急性反応が見られたものの、これまでエイズが悪くなったり副作用が出たと言う事はなく、この治療は安全に行う事が可能だ。さらに、注入した遺伝子改変細胞の末梢血中の数は最初の1週間をピークに減るが、CD4T細胞全体は維持されている。さらに、大腸からサンプルを取って調べると、注入した遺伝子改変細胞が腸管の粘膜層に定着している事も明らかになった。残念ながらほとんどの患者さんで抗エイズ薬を止めると血中のビールスの上昇が見られ、治療自体を更に工夫する必要がある事も明らかになった。ただ大きな光は、この遺伝子改変で両方の染色体でCCR5遺伝子に32塩基対の欠損を導入できた1例の患者さんでは、治療を止めてもビールスの上昇が見られない事がわかった点だ。もし遺伝子改変の効率を上げる事が出来れば根治も可能である事を示していると思う。例えばiPS技術を使えば自由に遺伝子を改変する事が可能だ。その上でCD4T細胞を調整して注射する事も将来は可能だろう。エイズの根治が視野に入って来た画期的な研究ではないかと思う。