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3月12日:主観性の研究に向けて?(米国アカデミー紀要オンライン版掲載論文)

2014年3月12日
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今日紹介する論文は少し専門的すぎると思う。それでも是非紹介したいと取り上げた。デカルト以来私たちは、主観性は科学の対象にならないという2元論に縛られて来た。わざわざ「クオリア」と主観的感覚に対して特別な言葉を用いるのもこの縛りのせいだ。しかし科学は必ずここに踏み込む。私は21世紀の科学はこの問題に必ず挑戦できると期待しており、ことあるごとに若い人達をアジっている。また、この大きな課題へ挑戦への手がかりとなる研究に出会いたいと思って論文に目を通す。そんな時飛び込んで来たのがこのスウェーデンカロリンスカ研究所の仕事で米国アカデミー紀要に掲載されている。タイトルは「Out-of-body-induced hippocampal amnesia (肉体離脱による海馬性健忘)」だ。これはデカルト流に言うと「心と身体」の統一性と記憶についての研究だ。あるエピソードを経験する際、身体感覚と経験が解離していると経験を記憶に留めにくいという仮説が検討されている。ではどのように身体から経験を離脱させるのか?これを実現する手法がこの研究のキーで面白い。実験に参加する被験者はテレビゴーグルを通してしか自分と周りの状況を知る事が出来ないようにされている。こうする事で自己と周りの関係の認識のセッティングを変える事が出来る。普通誰かと話をする時対面し目と目を合わせる。この研究ではこれ以外に、対面している側の視点で自分を見たり、あるいは斜めから自分と対面者が入ったシーンを見せる事で、我々が通常主観的に認識するのとは異なる状況を体験させている。それぞれのセッティングで対面者(実際には学生に対する教授)との対話を通して経験したエピソードを1週間後どれほど鮮明に覚えているかを調べている。結果は仮説通りで、1)生活でのエピソード記憶には主観的観点に合致した身体感覚が必要で、2)主観性が侵されると海馬左後方で行われている身体認識とエピソードを結合させる活動が特異的に障害されると言う結果だ。主観性への道のりはまだまだ遠いが、確かに挑戦は始まっていると言う実感を持つ論文だ。今後続々この様な研究を読める事を期待したい。さて余談だが、デカルトの死んだのはなんと真冬のストックホルムだった。もし今から50年後にデカルト2元論の克服につながる最初の仕事がこの研究だったことになったら面白いのにと一人で楽しんでいる。

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