現在は作ろうという試みはないと思うが、子供の頃、ライオンとトラを掛け合わせたライガー、ヒョウを掛け合わせたレオポンなど、異種を交雑させてハイブリッドを動物園などでつくる試みが行われていたように思う。もちろん動物園に限らず、ラバなどは古くから行われてきた人為的ハイブリッドの代表と言えるだろう。しかし、今の今まで、異種間交雑が自然で起こるとは考えたことがなかった。
しかし、動物学では異種間交雑は当たり前のことらしく、進化過程で新しい遺伝子を導入するための重要な戦略になっている種もあるようだ。今日紹介するノースカロライナ大学からの論文は2種類のアメリカ南部に住むスペードフットヒキガエル同士の交雑の条件を調べた面白い論文で3月20日号のScienceに掲載された。タイトルは「Female toads engaging in adaptive hybridization prefer high-quality heterospecifics as mates (異種と交雑を行うメスのヒキガエルは質の高い相手を好む)」だ。
この研究では平原(plain)スペードフットヒキガエル(写真:http://www.reptilesofaz.org/Turtle-Amphibs-Subpages/h-s-bombifrons.html)のメスと、ニューメキシコ・スペードフットヒキガエル(写真:https://www.123rf.com/photo_7211299_new-mexico-spadefoot-toad-spea-multiplicata-toad-sitting-on-a-rock.html)のオスとの間で見られる交雑が、進化的適応として生まれた可能性を調べている。すなわち、進化的適応だとするとこの時強いオスだけ選んで交雑するはずだと考え観察や交配実験を行なっている。
「何?異種間交雑が進化的適応になるの?」と訝しく思う人のために説明すると、この組み合わせで生まれたオスは不妊だが、メスは正常オスと交雑して子孫が残せるらしい。そして、このヒキガエルはせっかくできたオタマジャクシも、乾燥のために全滅することもある乾燥地帯に住んでいるが、異種間交雑でできたオタマジャクシは早く成長し変態が可能なため、進化的適応が可能になるというわけだ。
こんなことを考えて異種の相手を選んでいるわけではもちろんないが、わざわざ異種と交雑するのだから当然強いオスを選ぶほうがいい(このような目的論はなかなか頭から払拭できない)。観察すると、鳴き声がゆっくりしたオスを選んでいることが明らかになった。そこで、本当にゆっくりした鳴き声のオスから生まれたオタマジャクシは、早い鳴き声のオスから生まれたオタマジャクシと比べて、早く成長するのか調べると、明らかに成長の早いオタマジャクシが生まれる。期待通り、メスは進化的適応の高い子孫を残す選び方をしている。
では、いつでもこのような選び方をするのだろうか?そこで、乾燥した水が浅い条件と、水が十分ある条件で同じメスで調べると、水が浅くて乾燥が心配される時だけ、ゆっくり鳴くオスを選んでいることがわかった。一方、同種の場合はこのような違いはない。すなわち、将来の環境を予想して適応力の高い異種相手を選んだということになる。
このような選択は、アメリカ南部のニューメキシコでは見られるが、他の条件のいい地域では、水の深さにかかわらず全く起こらない。すなわち、声とは関係なく異種の雄と交雑する。面白いことに、条件のいい地域ではもともと同種間の選択は条件にかかわらず、ゆっくりした鳴き声の雄が選ばれることを示している。
結果は以上で、合目的に説明するのを許してもらうと、もともとゆっくりしたパルスの鳴き声を好むアメリカヒキガエルが、砂漠地帯へと進出する時、この性質を異種間選択にだけ使うようなったというシナリオになる。
進化が、環境の同化であることがよくわかる面白い論文だった。
動物学では異種間交雑は当たり前のことらしく、進化過程で新しい遺伝子を導入するための重要な戦略になっている種もあるようだ。
Imp:
ネアンデルタール人、デニソワ人、ホモサピエンス間の交雑を連想しました。
これらの遺伝子差異は他の動物種ならば別種と認定されるレベルだとか。
現生人類も異種交雑の賜物なのでしょうか?