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3月26日 BCGはなぜウイルス感染予防効果があるのか(2018年1月号 Cell Host & Microbe 掲載論文)

2020年3月26日

前回新型コロナウイルスの感染動態についてのThe Lancet論文を紹介した時(https://aasj.jp/news/watch/12611)読者からBCGワクチンが新型コロナウイルス感染予防に効果がないか確かめる治験が進んでいるという情報が送られてきた。調べてみると、3月23日Scienceはオランダナイメーヘン大学のグループが中心になってオランダではBCG接種が進行中であることをレポートしていた(https://www.sciencemag.org/news/2020/03/can-century-old-tb-vaccine-steel-immune-system-against-new-coronavirus?fbclid=IwAR3UkYZT941PpzUVKkNwXzkARg9uL-d2OdiZV0qQICrL9U5ke0FwegMwYZ0)。すさまじい勢いで様々な可能性が提案され、研究から臨床への時間差もほとんどないことを知って、今回のコロナウイルスパンデミックが、医学と一般の人との関係を確実に変えるという実感を持った。

ではどのようなメカニズムでBCGがウイルス予防に効果があるのか勉強してみようと、2018年1月ナイメーヘンのRadboud大学からCell Host & Microbeに発表された論文を読んでみた。タイトルは「BCG Vaccination Protects against Experimental Viral Infection in Humans through the Induction of Cytokines Associated with Trained Immunity(BCGワクチンはヒトの実験的ウイルス感染を免疫訓練で誘導できるサイトカインを通して防御する)だ。

もともとBCGで免疫を変化させ、結核だけでなく、ガンや感染症を抑制しようとする試みは大阪大学を中心に我が国で活発に行われた。現状については把握できていないが、その後自然免疫の概念が確立しBCGのような複雑な刺激ではなく、より洗練された自然免疫刺激分子の研究へと移ったように思う。

一方、このグループはBCGにこだわっており、その意味で刺激自体を分析することにこだわらない。この研究ではBCGが血液のエピジェネティックを変化させるという仮説を人間で確かめることが目的になっている。実際、同じ時期にマウスを用いた実験系で、BCGがIL-1βを介して造血幹細胞のエピジェネティック状態を変化させることで、長期間続く訓練免疫状態が維持できることをCell に報告している。

この研究ではまず、BCG接種を受けた健常人血液から単球を分離し、ヒストンのアセチル化を全ゲノムレベルで調べ、一回のBCG接種で、単球のエピジェネティック状態が大きく変化し、特にサイトカインや様々な増殖因子を分泌する方向にプログラムが変わっていることを示している。すなわちBCGが長く持続する血液の変化を誘導することを示している。この状態を著者らはtrained immunity(訓練免疫状態)と呼び、IL-1βやIL-6などの分泌が恒常的に高い状態を誘導していることを示している。

そして無毒化した黄熱病ウイルスを接種する実験を行い、血中のウイルス量がBCGを接種された群では約1/5になることを示している。しかし、ウイルス感染によるサイトカインの分泌や、ウイルスに対する抗体産生と、ウイルス抑制は全く相関しない。唯一相関するのは、血中IL-1βの上昇で、もちろん抗原特異的な反応ではない。総合すると、免疫反応というより、血液全体の状態が強化され、ウイルスの種類を問わず、抵抗性が上がったと言って良さそうだ。

詳細は省くが、他の研究結果も総合して、BCGは直接IL-1βを誘導するが、これが血液幹細胞に作用してエピジェネティックスを再プログラムし、さらにIL-1βなど重要なサイトカインが出やすい体質に変え、これがウイルス抑制効果につながるというシナリオだ。

最終的なメカニズムまでクリアーになったとは言えないが、BCGウイルス増殖抑制作用が人間で確かめられていることから、重要な貢献だと思う。ただ、実施するにあたっては、遺伝的に反応がほとんどないグループが存在し、そのSNPもわかっているので、これを調べることは重要だろう。また、我が国では多くの人がBCG接種を受けている。これが日本で感染が抑えられている理由かもしれないが、今回のコロナに備えてもう一度接種するとなると、初めての人より強い副反応が発生することは覚悟する必要がある。しかし、やってみる価値は確かにあると思う。


  1. okazaki yoshihisa より:

    BCG⇒IL-1β分泌⇒造血幹細胞エピジェネティック状態を変化させる⇒訓練免疫状態の維持を可能に
    Imp:
    確かに日本は、中国、欧米に比べて感染者数が極端に少ないですね。。。
    巷では、様々な噂が流れていますが。。。。真実はいかに?
    しかし、感染症、脅威です。
    ヒト個人個人が、苦しみ・死ぬ(多くの疾患はこのレベルに留まる)だけでなく、
    人類が苦労して築き上げてきた、文明、国家、経済まで破壊していく。。。。
    ペストを連想し、下記読みました。巨大帝国衰退の原因にもなってるんですね。Newtonが、微分積分、万有引力、光学の諸原理を着想したのは、1655年の流行時。人類に進化を促す、自然選択圧?
    https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9A%E3%82%B9%E3%83%88

  2. Hirata より:

    ウイルス感染による肺炎重症化にはサイトカインストームが誘導されていると聞いたことがあります。BCG摂取によるサイトカイン産生増強は逆にサイトカインストームを抑制するのでしょうか?

    1. nishikawa より:

      この研究では、ウイルス増殖が中程度に抑えられること以外は、何も示されていません。サイトカインストームは、ウイルスの量が増えてきて、それを抑えるために様々なサイトカインが分泌される状況ですが、エボラのような特殊なウイルスを除くと、ウイルス量が増えなければ軽度で済むと考えられます。

  3. Manabu より:

    Tokyo-172やRussian BCG-Iなどの前期分与株とパスツール株などの後期分与株で、作用やワクチンの効果期間に違いがあるのでしょうか? いくつか文献を見たところ、BCGワクチンの効果期間は10年程度とするものから、60年まであり、かなり違いました。集団的な免疫の有無を基に、再生産数が各国で異なるなら、効果期間が長くないと説明できないような気がいたします。

    1. nishikawa より:

      BCGは生菌で、接種後リンパ節で何十年も生きていたという論文がずいぶん昔に出ています。ただ、この効果についての持続力はわからないと筆者らも言っています。もちろんエピジェネティック変化は持続し、幹細胞なら長く再生産されますので、これがかかりにくいという結果になっておれば嬉しいことです。

  4. fullmetaltrirobite より:

    古い論文ですが、「mφはIL-10やTGF (ト ラ ンス フォー ミング成長 因子)-βの ような抑制性 のサ イ トカ イ ンを分泌 し, 促進性 の炎症 性 サ イ トカ イ ンの働 き過 ぎを抑 え る. IL-10は活性 酸素 の産生 を抑 える. これ らのバ ランスの とれ た防御 体制 を, BCGが 演出 してい るのであ る.」
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/35/6/35_6_458/_pdf

  5. 中島透 より:

    オランダとオーストラリアでの治験に使用されるBIG株や投与方法をご存知ですか?

    1. nishikawa より:

      残念ながら把握しておりません。

  6. 中島透 より:

    BIG株はBCG株のタイプミスでした

  7. YY より:

    https://www.mpiib-berlin.mpg.de/1990061/news_publication_14610776_transferred

    Max Planck Instituteで新しい結核ワクチンの臨床試験が進行中
    新型コロナに効果があるかの大規模研究も始まる模様

  8. kanaya より:

    BCGウイルス増殖抑制作用が人間で確かめられている重要な貢献

  9. 知識の窓 管理者 より:

    一度、コチラを精査して欲しいです。

    内容は

    完治した患者の血液製剤でコロナ治療法になるのか?

    米国でも治験が始まっているらしい・・

    内容まとめてみました。
    https://chishiki-mado.com/1934.html

    1. nishikawa より:

      抗ウイルス力価が80倍を超える血清が効果があることは報告されています。また、多くの治験が進んでいるので結果はすぐ出ます。エボラの経験で、結局最も効果があった治療法は抗体でした。早くモノクローナル抗体が作られたらと思います。

      1. nishikawa より:

        追伸ですが、もともと血清療法はジフテリアトキシンに対して我が国の北里柴三郎により開発されたものです。馬などで作った血清は、今でもヘビ毒の中和に使われています。ただ、他の種の血清だと、2度3度と打つとアナフィラキシーが出ます。そこで現在では、人型モノクローナル抗体を使う治療に置き換わっています。エボラでも2社がモノクローナル抗体を開発し、他の抗ウイルス剤と比較しても、良い成績を収めています。ただ、モノクローナル抗体薬として市場に出すまでには1年以上はかかるでしょう。それまでは、回復した人の血清は頼りになります。

  10. test より:

    もっとわかりやすく書いておk

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