私が医学部を卒業した頃は、細胞が死ぬということは全てネクローシスと名付けていた。しかし、細胞死の分子メカニズムがわかってくると、アポトーシス、ネクローシス、ネクロプトーシス、さらにはピロトーシスまで細胞死が細かく分類されるようになった。すなわち、細胞も時と場所に応じて死に方を選んでいることになる。
例えば感染により細胞が死ぬときは、大騒ぎして周りの細胞に働きかけ炎症を起こして感染を防ぐ必要がある。一方、発生時にアポトーシスは必須だが、周りの細胞に迷惑をかけずひっそりと死んでいく必要がある。ただ、ひっそりと死ぬと言っても細胞死が起こるわけで、周りを刺激しないようシグナルを出す必要がある。
今日紹介するバージニア大学からの論文はアポトーシスに陥った細胞がどのように気を配りながら死んでいくのかについて解析した研究で3月18日Natureオンライン版に掲載された。タイトルは「Metabolites released from apoptotic cells act as tissue messengers (アポトーシス中の細胞から遊離される代謝物は組織へメッセージを伝える役割がある)」だ。
この研究は最初からアポトーシスが始まると、普通には出てこない代謝物が細胞から遊離してきて、これが周りの組織に働きかけ、強い反応が起こらないようにする、すなわちひっそりと死ぬことができると仮説に基づいて実験を行なっている。このため、アポトーシスを誘導した細胞から遊離される代謝物を解析し、最終的に重要と思われる6種類(AMP,GMP, クレアチニン、スペルミジン、リン酸グリセロール、ATP)を特定している。
また、これらの代謝物が壊れた膜から出るのではなく、まだ機能しているチャンネルを通して選択的に遊離されること、そのチャンネルの一つがPANX1であることを突き止める。さらに、スペルミジンも死んだ後の老廃物ではなく、細胞死が始まるとわざわざ合成されて、PANX1を通って選択的に遊離することを明らかにする。
次に、これらの代謝物はメッセンジャーとして周りの組織に指示を出しているのか、アポトーシスを誘導された細胞の培養情勢をマクロファージに転化する実験を行い、例えば炎症性の分子を抑え、抗炎症性の分子やアポトーシスを抑える分子を上昇させるなど、遺伝子発現のプログラムを変化させることを示している。
最後に、今回発見した様々な分子が実際の組織で働いているかどうか調べる実験をいくつか行い、
- CD4T細胞のPAMX1をノックアウトすると、アポトーシス細胞から周りの白血球へ働き変えられなくなること、
- そして、今回発見した代謝物が、関節炎モデルや肺の拒絶反応モデルで見られる炎症をおさえること、
を明らかにしている。
人間社会に置き換えてみると、周りに大騒ぎして悲しまないようまずしっかり伝えてから、あとは自分で始末してひっそり死ぬ方法と言えるように感じた。さらに、他の死に方をアポトーシスに変える代謝物ミックスまで発見しており、今後の応用が期待できる。
1:遺言メッセージ、6種類(AMP,GMP, クレアチニン、スペルミジン、リン酸グリセロール、ATP)を特定する。
2:メッセージは、機能しているチャンネル(PANX1など)を通して選択的に放出される。
3:生存細胞の遺伝子発現プログラムを変化させる。
Imp:
細胞間クロストークですね。
拝読し、なぜか、「神は細部に宿る」の言葉を思い出しました。「神は細胞に宿る」の言葉(小生の造語)も、これからは、西川先生と共に思い出すと思います。70歳前半の小生としては、周りに大騒ぎして悲しまないようまずしっかり伝えてから、あとは自分で始末してひっそりと仙界に旅立てればとも思いました。ありがとうございます。
私も同じ気持ちで読んでおりました。