機能的MRI(fMRI)は活動中の神経領域の血液供給量が増えることを利用して(この原理を探った論文については3月12日に紹介した:https://aasj.jp/news/watch/12571)、特定の課題を行なっている時に働いている脳領域を特定する技術で、今や人間の脳機能解析になくてはならない方法になっている。しかし脳構造を調べる一般のMRIと比べると、臨床診断に用いられることは少ない。ところが最近、何も課題を行なっていない状態でfMRI検査を行い、自然に見られる血流の揺らぎを調べて、神経活動の機能的連結性や、ベースラインの活動を調べる方法が採用され、様々な病気での異常が報告されるようになってきた。誤解を恐れずわかりやすく言ってしまうと、普通のfMRIではノイズと思われる活動に注目して脳の状態を知ろうとする方法と考えれば良い。
今日紹介する北京にある中国科学院研究所からの論文はこのfMRI検査方法を用いて脳幹の線条体に着目して、統合失調症の患者さんを調べた研究でNature Medicineオンライン版に掲載された。タイトルは「A neuroimaging biomarker for striatal dysfunction in schizophrenia(統合失調症の線条体の機能異常を調べる神経画像マーカー)」だ。
統合失調症で機能的異常が最も明らかな領域の一つは線条体で、これがかなりの患者さんでドーパミン受容体D2を抑制する薬剤が症状を和らげる理由になっている。そこでこの研究では、安静時の線条体をfMRIで血流のゆっくりした振動を拾い、このデータから、領域内の活動性、領域内の神経結合性、そして領域外との神経結合性を計算している。
結果は予想通り、線条体内の緩やかな振動の振幅を安静時の神経活動と対応すると仮定すると、統合失調症では明らかに振幅が大きく活動性が上がっていることを示している。また、このデータと他のパラメーターとの相関を調べると、ドーパ神経の活動と強く相関することも確認している。
そこで、こうして得られた3種類のデータを機械学習させ、今度はfMRIデータを病気診断に使えるか調べると、80%の確率で診断が可能になっている。しかし、この程度で診断手段として実用的かどうかは疑問だ。幸い、ドーパ神経の活動と相関している指標であることがわかったので、ではドーパミンD2受容体抑制剤に対する反応と、AIによる診断とが一致するか調べ、かなりの精度で治療に対する反応を予測できることを示している。一方治療抵抗性の統合失調症に対するクロザピンの効果との相関を調べると全く相関が見られないことから、作用メカニズムが全く違うことがわかる。
最後に、これまでの統合失調症ゲノム解析でリストされた遺伝子の発現と安静時の緩やかな波の振幅を指標とした脳活動との相関を調べると、40以上の遺伝子の発現場所と脳活動の上昇とが一致していた。
以上が結果で、安静時のMRI検査ということで、診断には使いやすいと想像できるので、統合失調症の患者さんも、この方法でまず分けた後、様々な治療の効果を調べる必要があると思う。総合的で素人にとっても面白い論文だった。
1:統合失調症ゲノム解析でリストされた遺伝子の発現と安静時の緩やかな波の振幅を指標とした脳活動との相関を調べた。
2:40以上の統合失調症遺伝子の発現場所と脳活動の上昇とが一致していた。
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