我々の身体の代謝に腸内細菌叢が重要な役割を持つことについては、誰も疑う人はいない。それどころか、一般の人も、自分の腸内細菌叢を何とか善玉にしたいと思うようになっているが、ではどうするのかについては、メーカーの言葉を信じるしかない。そう考えると、メーカーの責任は重い。「安全ならあとは売れればよい」、「結局長期効果など誰も検証しない」と、簡単な臨床試験や動物実験結果をもっともらしく宣伝するのではなく、本当に顧客を(満足ではなく)健康にできるかを真剣に考えた製品を作っていってほしいと思う。
とはいえ、人間で食事と腸内細菌叢の関係を、厳密に研究するためには、人間の行動をモルモットのように厳密にコントロールする実験が必要になる。今日紹介する米国国立衛生研究所からの論文は、25人のボランティアを30日間研究室に閉じ込めて食事や抗生物質投与をコントロールした研究で3月23日号のNature Medicineに掲載された。タイトルは「Effects of underfeeding and oral vancomycin on gut microbiome and nutrient absorption in humans (減食とバンコマイシン服用がヒトの腸内細菌叢と食品の吸収に及ぼす影響)」だ。
普通動物実験でしかできない完全な食事のコントロールを短い期間でもやり遂げたことがこの研究の全てだ。30日間研究所に閉じ込め、最初は2400Kcalの全く同じ食事を摂取させ、その後片方は3600Kcal、もう片方は1200Kcalの食事を3日間だけとらせる。その後3日間2400Kcalに戻したあと、もう一度同じように過食と減食3日間を続けてもらい、その間に様々な検査を行う。
このシリーズの後8日間の回復期間をおいて、今度は経口的にバンコマイシンを3日間服用させ、服用したグループとしなかったグループで、同じように検査を行い実験終了となる。
この31日に及ぶモルモット体験で調べられる最も重要な項目は、カロリーの接種率と、便として排泄されるカロリーの量で、あとは便の細菌叢検査などだ。結果をまとめると次のようになる。
- 便として失われるカロリーを吸収されたカロリーに対して計算すると、不思議なことに、減食した方が多くのカロリーが便として失われる。すなわち、カロリー制限はカロリーの吸収をさらに落としてくれる効果がある。
- バンコマイシンは消化管から全く吸収されない抗生物質で、腸内細菌叢だけを減らすことができるが、腸内細菌叢が減ると同じように便として排出されるカロリーは増える。
腸内細菌叢や血液の検査を通してこの結果を解釈しようとしているが、減食やバンコマイシン服用により粘液を消化し腸のバリアー機能に関わる細菌が増え、食物の吸収が低下すると同時に通過が早くなること、また完全に原因として特定できてはいないが、酪酸の分泌など様々な代謝物のバランスもこの変化に貢献しているだろうとしている
減食でよりカロリーの損失が増えること、また減食した方が細菌の多様性が上昇するという結果は、直感に反する結果だが、最終的な印象としては、食事をコントロールする実験は難しいというのが印象だ。31日間拘束しても、たかだか6日間の栄養コントロール実験しかできない。本当はもっと長期の影響が必要になる。したがって、人間モルモット実験には限界がある。これを克服するには、日常の多様な行動を科学に仕上げていく方法論を確立しなければならない。それまでは消費者はマーケティングの言葉以外に頼るものがない状況は続く。その意味で、メーカの消費者の健康に本当に寄与したいという覚悟が望まれる。
西川伸一のジャーナルクラブ=『果糖についてのジャーナルクラブ』果糖の新たな代謝経路についてでした。
Fructose+腸内細菌叢⇒Acetae+ACSS2⇒Acetyl-CoA⇒脂肪⇒脂肪肝の講義でした。
血内細菌叢と食の関係、一筋縄ではいきません。