3月19日:細菌に腸内環境を記録する(アメリカアカデミー紀要オンライン版)
2014年3月19日
最近腸内細菌と病気との関係が注目を集めているが、これにはDNA配列決定の技術進歩が大きく貢献している。例えば腸内内容物のリボゾームRNA遺伝子の配列を次世代シークエンサーを使って決定すると、調べたい場所に存在する腸内細菌の種類を正確に知る事が出来る。一昔前は、細菌の特定には菌の培養が必要だったが、これと比べると多くのサンプルを迅速に処理出来る。事実3月12日号のCell Host & Microbe紙に掲載されたハーバード大学を中心とした研究グループでは、450例近くの若年性クローン病患者さんから、 大便だけでなく、回腸や直腸のバイオプシーサンプルを集め、その中に含まれる腸内細菌叢の種類を調べている。これまでの研究では、大便の腸内細菌叢とクローン病とのはっきりとした相関は見られないとされていたが、今回の研究では回腸や直腸の細菌叢の中にクローン病で増える細菌の種類を特定しており、将来の治療も含めて期待が持てる結果だった。とは言え、次世代シークエンサーやバイオプシーを一般臨床に使う事は難しい。より簡単に腸内の状況を調べる方法がないのだろうかと思っていたら、今日紹介する論文を見つけた。これもハーバード大学からの研究で、米国アカデミー紀要オンライン版に掲載されている。タイトルは、「Programmable bacteria detect and record an environmental signal in the mammalian gut (プログラムした細菌を使って腸内環境を検出し記録する)」だ。方法の細部は全部省くが、外界のシグナルを感受して標識遺伝子を安定に発現する様なスウィッチ回路遺伝子を組み込んだ大腸菌を作成する。例えば、一定量のアルコールにさらされると光を出す大腸菌を飲んで(実際の実験ではテトラサイクリンと言う抗生物質をシグナルに使っている)、何日後かに大便が光っておればアルコールが消化管のどこかに存在していた事の証拠になると言うアイデアだ。実際にマウスにこのレポーター細菌を飲ませて、腸管内に存在するテトラサイクリンの検出に成功している。ただ、本当の目的はこの様な単純なレポーターではなく、腸管内に生息する悪玉菌と接触すると光る様な仕掛けを組み込んで、最終的には疾患に関わる菌の存在を検出する検査系の確立を目指している。患者さんが組み換え細菌を飲んでもいいと思える様なレポーターを完成させるためにはまだまだ多くのハードルがある。しかし論文を読んだ後、色々工夫をすれば可能ではないかと思えてくる。最初に紹介した論文からわかるように、大便に存在する腸内細菌叢は疾患との相関がないが、直腸や回腸などの奥深くの細菌叢は相関性が見られる場合がある。とすると、何回もバイオプシーを繰り返す代わりに、この様なレポーターが活躍する場合も十分あり得る。面白い研究が世界では進んでいる。