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5月2日 新型コロナウイルス肺炎というパズルのピースが集まってきた(JCI Insight オンライン掲載論文他)

2020年5月2日
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マスメディアレベルでは、新型コロナ肺炎という決まった単位があって、あとはどんな薬が効くかともかく視聴者に伝えて、視聴率を稼ぐことで十分だろう。しかし、医師や研究者にとっては、共通性と特殊性が混合した個別のケースを、最終的には大きな枠の中で全部説明できるメカニズムを探り、それを標的にした治療が必要になる。そういう目で毎日の論文を見ていると、不謹慎とは思うが、ジグソーパズルや謎解きゲームのような、面白いゲームに参加しているような気持ちになる。

そこで、今回も新型コロナウイルス肺炎の重症化について、論文をサーフしながら、頭の整理をしてみた。

さて、この病気が重症化する原因として、肺を中心に様々な微小血管内の血栓形成が指摘されてきた。実際、フィブリンの分解物であるD-ダイマーの血中濃度と、重症化との相関は、この可能性を強く示唆している。また、肺だけでなく、心臓や腎臓障害が頻発することもこれで説明可能だ。さらに皮膚症状として、川崎病のような血管炎症状を見ることも報告されている。とすると、以前紹介したようにウイルス敗血症のような全身性の血栓形成DICが起こるのではと危惧される。

これに対し、4月24日にダブリン血管研究所からBritish Journal of Haematologyに発表された論文では、

確かに重症患者さんではD-Dimerの上昇をはじめとする血栓形成が起こっていることは間違いないが、白人に関して言えば(低分子ヘパリンは服用している)、プロトロンビン時間や血小板数に重症者、軽症者に差がなく、DICが重症化と関係する可能性はほとんどないと結論している。そして、肺の病理などを根拠に、局所的な微小血管内血栓が重症化の原因ではと推察している。

もともと血栓の起こりやすさには人種差があり、ひょっとしたらこれがアジア人で死亡者が少ない原因かもしれない。

では一体どのようなメカニズムで、局所血管の血栓ができるのか?これを考えるパズルのピースとして、D-ダイマーなどの血栓形成指標に加えて、1)好中球が上昇していること、2)肺の微小血管から肺胞腔まで好中球の浸潤とともにフィブリンの沈着が見られること、から導かれた一つの可能性が、Neutrophil Extracellular Trap(NET)という現象がcovid-19で発生しているのではないかという可能性だ。

そしてこの可能性は、ニューヨークのZucker School of MedicineとCold Spring Harbor研究所のグループがJournal of Experimental Medicineに発表した総説の中でいち早く指摘している。

ここでNETについて少し説明する必要があるだろう。好中球は様々な刺激で炎症局所に浸潤し、細菌を貪食したり炎症誘導因子を分泌したりして生体防御に関わるが、この細胞は最後の切り札として、核内からクロマチンごとDNAを細胞外に放出し、そこで血小板やフィブリンなどを捕捉する極めて特殊な死に方ができる。この細胞外に放出されたクロマチンを中心に炎症や血栓ができるのがNETで、ウイルス疾患や、サイトカインストームが起こるような条件で誘導され、持続する強い局所炎症の原因になることが知られている。

またCovid-19が問題になる前から、川崎病のような血管炎、あるいはARDSもNETとの相関が示唆されてきた。この意味で、なかなか魅力的な仮説で、少なくともCovid-19がらみの血栓に関する私の知識は、この仮説の中に十分収まると感じていた。

そして4月24日、ミシガン大学のグループが重傷者では臨床的にNETが発生しているという論文をJCI Insightに発表した。

この研究では50人の患者さんを、NETが発生していると仮説を立て、必要な検査を行っている。するとコントロールと比べ、NETを示すDNA、ミエロパーオキシダーゼとDNAの混合物、そしてシトルリン化されたヒストンの血中濃度が高まっていることを確認する。

そして、ベンチレーターを必要とした重症患者さんでは、血中のDNAやミエロパーオキシダーゼとDNAの混合物が有意に上昇していること、そして患者さんの血清を好中球の培養に添加するとNETを誘導できることを明らかにした。

結果はこれだけで、実際にままだまだNETが重症化のメカニズムだとするには証拠が断片的だと思うが、しかし肺病変はもとより、皮膚の血管炎、腎障害、心臓障害などを含め、covid-19の病態をかなり説明できる。

また、NETが発生することにより、IL-1βとIL-6の刺激回路ができて、NET局所の炎症が拡大することも知られており、重傷者がIL-6が高値を示し、これに対する抗体が症状を抑えることができる点も説明できる。

そして何よりも、NETを想定することで、新しい治療が可能になる。というのも、詳細は割愛するが(詳しいことを知りたい方は、例えばJCSに発表された総説を参照してください)、NETは他の細胞死と同じで、決まったプロセスを経て起こる。具体的には、ウイルスをはじめ様々な刺激で好中球が活性化されると、細胞骨格が分解した後、核膜が崩壊、その結果クロマチンごとDNAが放出されるが、この過程でヒストンのシトルリン化酵素や、エラスターゼなど多くの分子が関わっている。

それを標的にすることで、NETを抑え、サイトカインストームや血栓を抑える可能性がある。

これに基づいて、Journal of Experimental Medicineの総説では、いくつかの治療戦略を挙げているので最後に紹介する。括弧内に書き添えたのは、他の論文も参考にした個人的メモ)。

  • ヒストンのシトルリン化に関わるPAD4阻害剤(ただNETも多様で、Covid-19ではPAD4の関与は少ないとする報告もある)。
  • 好中球のエラスターゼ阻害剤。我が国ではシベレスタットがARDSに持ちられてきたが、効果は低いことが報告されている(実際にCovid-19でも使用されており、効果は高くないことが示されている)。しかし、新世代のエラスターゼ阻害剤があり、きたいできる。
  • 膜に穴を開けるGasdermin D阻害剤。
  • 細胞外に放出されたDNAを分解するDNaseI阻害剤. 繊維性嚢胞症で吸入療法がすでに実用化されている。
  • NETはマクロファージを活性化してIL-1βを分泌させ、これによりさらにNETが拡大する。また、IL-1βはIL-6誘導にも関わる。従ってIL-6に対する治療とともに、すでに実用化されているIL−1β阻害抗体の効果は期待できる。

以上、NETを加えると、頭の中のパズルもかなり形が見えてきた。