当たり前のことだが妊娠は体の代謝を大きく変化させることから、女性には大きな負担を強いる。特に、インシュリン抵抗性が高まることから、妊娠を繰り返した女性は、糖尿病のリスクが高くなる。しかしうまくできたもので、授乳を続けることでこのリスクが軽減されることも知られている。
今日紹介する韓国のKAISTからの論文はこのメカニズムをマウスモデルを用いて解析した研究で4月29日号のScience Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Lactation improves pancreatic b cell mass and function through serotonin production (授乳は膵臓β細胞量と機能をセロトニン合成を通じて改善する)」だ。
まず出産後授乳で子供を育てた女性と、授乳しなかった女性を対象に、出産後2ヶ月、および3.6年でブドウ糖負荷試験などを行い、2ヶ月目ではほとんど差がないのに、3.6年目には大きく耐糖能が改善していること、そして様々な指標から、この改善は膵臓ベータのインシュリン分泌機能が改善したことによることを明らかにする。
ここまでが人間での研究で、あとはマウスを用いた研究を行い、
- 授乳によりβ細胞の量が増加し、インシュリン分泌能が上がる。
- この効果は、プロラクチンによりセロトニンのβ細胞内合成誘導に起因する。
- β細胞でのセロトニン合成を阻害すると、授乳の効果はなくなる。
- セロトニンはインシュリン合成に伴い合成される活性酸素を直接賦活化することでβ細胞を守る。
と結論している。
拍子抜けするほど単純な話だが、これが本当だと、β細胞のセロトニン合成能力を誘導してβ細胞を守る可能性が生まれるように思う。実際実験では、アロキサンのようなβ細胞毒からセロトニンが細胞を守ることを示しているので、1型、2型ともにこのルートで病気を抑えられるか研究が進むことを期待する。
授乳→プロラクチ↑→セロトニンβ細胞内合成誘導→インシュリン合成に伴い合成される活性酸素を直接賦活化することでβ細胞を守る。