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5月7日 近眼の遺伝子は奥が深い(Nature Genetics 4月号掲載論文)

2020年5月7日
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高校時代ラグビー部の練習が終わりにさしかかった夕暮れ、ハイパントのボールを追いかけた時、ボールがボケていることに気づいて、以来メガネが友となった。その後50歳を越した頃、今度は食べようとするご飯粒がボケいるのに気がついて、以来遠近両用のお世話になっている。これは日本人の半分近くが経験する物語で、視力1以下となると高校生の7割近くが当てはまるらしい。

今日紹介するロンドンキングスカレッジを中心に多くの研究室が共同で発表した論文は、50万人以上のゲノムデータを集め、近眼の発生と相関する変異を持つ領域を特定しようとした研究で4月号のNature Geneticsに掲載された。タイトルは「Meta-analysis of 542,934 subjects of European ancestry identifies new genes and mechanisms predisposing to refractive error and myopia (542,934人のヨーロッパ人のメタゲノム解析により屈折障害と近眼につながる遺伝子とメカニズムが特定される)」だ。

近眼が生存にとってよほど有利な性質でない限り、これほど多くの人が近眼になるリスク遺伝子が少ないはずはない。また、生活習慣の重要性も当然と思っていたので、どの程度の数の多型が近眼に関係するのか?興味深い研究だ。と読み始めて、様々なデータベースを全て集めたかなり正確な解析によって、なんと449の遺伝子領域の変異が近眼と相関していることに度肝を抜かれた。

普通疾患多型データはマンハッタンプロットのような実際のデータが示されるのだが、これほど相関領域が多いと複雑すぎてデータがわかりにくいので、染色体地図上に優位に相関した領域を書き入れている。実際に見てもらわないと実感はないと思うが、Y染色体を除く全ての染色体に相関領域はまんべんなく分布している。

通常統合失調症や自閉症などのような高次機能の異常は多くのゲノム領域の相関が見つかるが、おそらくそれ以上だ。すなわち近眼は極めて奥の深い性質であることが明らかになった。

実際相関する領域にある遺伝子を見てみると、角膜やレンズだけでなく、網膜の構造や発達に関わる遺伝子を皮切りに、シナプス伝達に関わる遺伝子まで、これまで目の遺伝病に関わることが知られている様々な遺伝子との相関が浮き上がってくる。

個人的に興味が惹かれたのは、メラニン合成など色素に関わる遺伝子との壮観で、例えば光の量の小さな変化が積もり積もって近眼を誘導することは十分考えられる。

最終学歴と相関する遺伝子が近眼にも相関することは、勉強のしすぎが近眼を作るという話を裏付けているようにも思う。

これ以上紹介はやめるが、視力が我々の感覚の大きな部分を占め、1日15時間以上目を酷使しておれば、構造や昨日の少しの変化が、近眼となって現れることは十分理解できる。しかも、今回発見されたマーカーでは高々20%の遺伝性しか説明できないとなると、近眼とは人間の生活そのもので、奥が深いことがよくわかった。

  1. okazaki yoshihisa より:

    1:542934人のヨーロッパ人のメタゲノム解析
    2:様々なデータベースを全て集めた解析によって、449の遺伝子領域の変異が近眼と相関していた
    Imp:
    昔、眼科で習った説明:
    発達に合わせて、眼球が前後方向に拡大変形、眼軸が長くなり、
    角膜+水晶体による屈折焦点が網膜上に結ばれなくなるのが原因。
    解剖学的要因だけかと思ってましたが、実際には、449遺伝子が関与した現象だったんですね。

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