Stay Homeの最大の副作用は食べ過ぎ、運動不足による肥満だが、今回は生物学的・身体的要因だけでなく、法的にも世界中で自由が制限されたという精神的ストレスが加わっているため、深刻なデータが出てくるような気がする。
そんな中、別にダイエットをしているわけでないのに太らない人を必ず見かける。おそらく多くの人は、同窓会などにでてこのことを感じておられるだろう。おそらく太らない遺伝的素因があると考えられるが、メラノコルチンなど太る遺伝子多型は多く見つかっているのに、太らない遺伝子多型となると、病気を除くとほとんど見つかっていない。
今日紹介するオーストリア分子生物学研究所と食品メーカー ネッスルの研究所からの論文はなんと発ガン遺伝子として研究が盛んなALKが欠損すると、食べても太らないこという意外な結果を示した研究で6月11日号のCellに掲載予定だ。タイトルは「Identification of ALK in Thinness(ALKが痩せに関係することの発見)」だ。
著者らはこれまで太らないことと関係する遺伝子の発見が難しいのは、生活習慣や年齢の背景を補正して多型を探すことが難しかったことが原因であると反省し、これらの条件を満たしたゲノムコホート研究として、エストニアバイオバンクが使えることを発見する。
年齢や性別などの要因を補正した上で、痩せていることと相関する多型を探し、5つの領域を特定するが、この中に肺の非小細胞性腺ガン、白血病、そして神経芽腫などのガンのドライバーとして知られているALKのイントロンに存在する多型が存在することを発見する。
まずショウジョウバエを用いたRNAiによる昨日検索で、ALKノックダウンにより摂食行動は変化しないにも関わらず、太らないことを突き止め、マウスを用いた研究へ進んでいる。
ガン遺伝子としてのイメージが強いため、個人的にノックアウトマウスを用いるのは難しいだろうと思っていたが、意外なことにノックアウトマウスは正常に生まれ、生殖能も正常らしい。ただ、期待通り正常食でも、高脂肪食でも太ることがなく、常に正常より体重が低い。これは、エネルギー消費が高く、白色脂肪組織で脂肪の分解が高まっていることが原因であることがあきらかになった。
ただ、脂肪代謝に関わる肝臓や脂肪組織ではALKの発現はほとんど見られないためALKを発現が高く、脂肪代謝と関わる組織を探索し、最終的に視床の室傍核の興奮神経が脂肪代謝に関わっていること、そしてALKイントロンの多型によりこの神経細胞でのALK発現が低下することを確認する。
最後に、室傍核特異的にALKをノックアウトする実験で、この部位のALK発現が減少すると、太らないマウスができることを明らかにしている。
以上が結果で、もしこの多型を持っている人が全く正常な一生を送れることが明らかなら、ALKの発現を標的とした太らないためのお薬ができるかもしれない。
ALKノックダウンor発現異常:
ショウジョウバエ、マウス、ヒトまで、食べても太らない表現型を生み出す?
Imp:
ALK蛋白質の役目の一つは、エネルギー代謝に関係する?