ネアンデルタール人ゲノムを最初に解読し、私たちホモ・サピエンスにもネアンデルタール人のゲノムが遺産として伝わっていることを初めて明らかにしたのは、今年日本国際賞を受賞したSvante Pääbo さんだ。この発見のおかげで、私たちのゲノムに流入したネアンデルタール人ゲノム断片の機能を、私たち自身の形質の違いから推察することが可能になった。すなわち、ネアンデルタール人の形質を、私たち人類の多様性の中から拾いだして再構成できる。
今日紹介するSvante Pääboさんたちの論文はネアンデルタール人ゲノム解析と、英国のバイオバンクの情報を結びあわせてネアンデルタール人が安産だった可能性を示す研究でMolecular Biology and Evolutionに掲載された。タイトルは「The Neandertal Progesterone Receptor (ネアンデルタール人のプロゲステロン受容体)」だ。
ネアンデルタール人から受け継いだ多型の中にプロゲステロン受容体のアミノ酸変化を伴う多型が存在する。面白いことに、この多型はヨーロッパ人に多く、アジア人には少ない。この研究では、この多型の中にさらに繰り返し配列の挿入の多型が存在し、これがネアンデルタール人集団の多型を反映していることをまず明らかにしている。すなわち、ネアンデルタール人集団に存在していた多型が、異なる交雑機会を通して、私たちに流入している。
プロゲステロンは妊娠の維持に関わるホルモンなので、次にこの多型が妊娠に関わる形質と関係するか、50万人規模のゲノムと個人形質が集められているUKバイオバンクのデータと照らし合わせている。
まず、この多型があるとほとんどの組織で遺伝子の発現が上昇している。そして、妊娠初期の出血頻度や流産の頻度がコントロールと比べてオッズ非で0.85と低下する。さらに、この多型を持つ人は兄弟姉妹の数も多い。すなわち、母親も同じ多型を持つと考えられるので、兄弟が多いということは、子供が多いことになる。
以上が結果で、ネアンデルタール人から我々に流入したプロゲステロン受容体遺伝子の多型は我々に安産をもたらしたという結論になる。
ではなぜアジア人には安産の遺伝子多型が残っていないのか不思議に思うが、プロゲステロンの作用が強く出ることは、乳がんなどの危険性を上げる可能性があるので、他の遺伝子と組み合わさると当然ネガティブに働く可能性もある。いずれにせよ、一つ一つのネアンデルタール人多型を丹念に調べることの重要性がよく理解できた。
ネアンデルタール人から受け継いだ多型の中にプロゲステロン受容体のアミノ酸変化を伴う多型が存在する。
この多型はヨーロッパ人に多く、アジア人には少ない。
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集団遺伝学理論(数理科学理論)により、
ダーウイン進化論とメンデル遺伝学説の総合が見事に果たされている例でしょうか?
森本良太・田中泉吏先生著『生物学の哲学入門』より