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3月26日:脳の老化防止遺伝子(Nature誌オンライン版掲載論文)

2014年3月26日
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RESTと呼ばれる遺伝子がある。胎児性幹細胞(ES)に強く発現しており、現在山中CiRAに在籍する山田さん達の仕事によりES細胞分化を増強する遺伝子である事が示されている。元々は胎児の脳に強く発現するとして興味が持たれて来た遺伝子だが、やはり山田さん達の仕事で発生時期に発現するRESTが発現しなくても脳はなんとか発生するようだ。今日紹介する論文は、これまでとは逆にRESTと脳老化の関係を調べたハーバード大学からの研究で、結果を見て私も大いに驚いた。論文はNatureオンライン版に掲載されており、タイトルは「REST and stress resistance in ageing and Alzheimer’s disease (老化とアルツハイマー病でのREST遺伝子とストレス抵抗性)」だ。論文は極めてわかりやすい。先ずRESTが老化とともに誘導され、アルツハイマー病(AD)ではこの誘導が見られない事を発見している。その結果、老化した脳ではRESTが調節している遺伝子の発現が抑制されているが、同じ遺伝子発現の抑制がADではみられない。さらに軽度の認知障害を持った脳では認知の程度に応じてRESTの量が低下している。老化脳ではどのような遺伝子がRESTによって調節されているのか調べると、細胞死を誘導する様々な遺伝子を抑制しているのがわかる。さらにADと正常老化脳を比べる実験から、染色体を抑制的に変化させるヒストンのアセチル化が上昇している事もわかった。このように、RESTは老化脳を細胞死から守るために大事な時に発現するレスキュー隊の様な遺伝子だ。しかもRESTを誘導しているのは老化に伴う様々なストレスだ。もちろん他のシグナルでも誘導できるが、老化脳を考えるとやはりストレスから私たちの脳を守ってくれていると考えた方が良さそうだ。しかし、ADや他の神経変性性疾患ではこれまでも紹介したようにオートファジーが亢進しているため、RESTが分解されて脳を守れなくなっている事もわかった。様々な臨床例の脳標本の解析から、認知機能や寿命はRESTのレベルと明らかな相関が見られるため、RESTをなんとか維持すれば認知機能も守れるかもしれないと言う結果だ。この論文からわかるのは、RESTは老化と戦うためのスーパーマンに思える。しかしこの仕事を逆から見ると、老化した脳は本当にストレスにさらされているようで、できればRESTの厄介にならない様脳細胞を休ませる方法はないのだろうか。私の年齢になると気になる。

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