3月28日:減量手術の意外な効果(Natureオンライン版掲載論文)
2014年3月28日
手術で胃を80%削り取る手術は肥満に対する治療としては現在最も効果が高い事が証明されている。1月6日にこのページで肥満に対する薬剤を紹介したが、現状では減量手術の効果のほうが勝っている。更にこの手術を受けた糖尿病患者さんの40%が1年で完全寛解したと言う結果を見ると、内科「真っ青」の外科パワーと言っていい。しかも胃をバイパスして栄養摂取を減らすという誰もがわかるロジックだ。と思っていたら「え?本当?」と驚く論文がシンシナティ大学からNatureオンライン版に発表された。タイトルは「FXR is a molecular target for the effects of vertical sleeve gastrectomy (FXR分子が垂直スリーブ状胃切除の効果を決めている)」だ。要するに減量手術をして栄養摂取が減ると言うのは間違った先入観で、実際には胆汁のなかに含まれるステロイド物質胆汁酸の血中濃度が上昇しFXRホルモン受容体が活性化される事で、耐糖能を始め大きな代謝の変化が起こると言う事が示されている。このグループは先ず手術によって起こる遺伝子変化を調べ、脂肪代謝に関わる核内ホルモン受容体の活性が手術の結果亢進していると言う意外な結果を発見する。もともと術後ほとんどの患者さんで胆汁酸の血中濃度が上昇する事に気づいていたこのグループは、胆汁酸に結合するホルモン受容体FXR遺伝子を欠損したマウスを作成して、減量手術の効果を調べてみた。予想通り、FXR遺伝子が欠損したマウスは減量手術を受けても、最初は手術の直接効果で体重が減るもののすぐに元に戻る。詳しく調べると、手術を受けると食思行動変化し過食が減り、耐糖能が改善し、更に腸内細菌叢が善玉に変わるが、FXR遺伝子がないとこれら全ての効果が消える。即ち手術で胆汁酸の血中濃度が上昇し、FXR受容体が活性化することで、行動も含めて全体のバランスが体重を減らす方向へシフトすると言うシナリオが正しい事を示している。とすると、わざわざ手術をしなくとも胆汁酸の血中濃度を上げれば手術と同じ効果が得られる事になる。新しい肥満の内科治療を開発出来るかもしれない。結果が楽しみだ。ただ断っておくが、この研究は全てマウスのモデル実験での話だ。人間で遺伝子ノックアウトは出来ないため、やはり血中胆汁酸を上げる臨床研究が鍵になるだろう。しかし私たちの身体は浅い知識で理解しているよりははるかに複雑で面白い事を思い知った。