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7月11日 生物以前のタンパク質の機能を探る(7月7日号米国アカデミー起用掲載論文)

2020年7月11日

現代の生物学はもともと生命の自然発生を否定するパストゥールのテーゼ「生命は生命から」に始まっている。しかし、40億年前の地球では、このテーゼに反するAbiogenesis, 無生物から生物が発生した。現役を退いてからまずやってみたいと思ったのが、このAbiogenesisに関して行われている研究を調べ、自分なりにそのシナリオを理解することだった。最初どうなるかと思ったが、この分野が力強く進んでおり、自分でも納得できるシナリオをまとめることができた。そして大胆にも、阪大や東大の学生さんにAbiogenesisを講義している 。その内容はHPでもYoutubeで紹介しているのでぜひご覧いただきたい(https://www.youtube.com/watch?v=fN9PZtj_UGk)、

ただ、この講義ではいわゆるRNAワールドを基本に講義を構成しており、アミノ酸が繋がったペプチドのabiogenesisの可能性は講義しても、自然発生したタンパク質と機能との相関についてはほとんど講義していない。これは、自然発生では機能という目的性が全く存在せず、取りつく島がないからだが、今日紹介するイスラエル・ワイズマン研究所からの論文はこの分野の方向性を示す面白い研究だと思ったので紹介する。タイトルは「Primordial emergence of a nucleic acid-binding protein via phase separation and statistical ornithine-to-arginine conversion (核酸結合タンパク質は原始の世界で、オルニチンがアルギニンに転換し、相分離が起こることで自然発生した)」だ。

おそらくこの論文の著者らも最初の機能的タンパク質がRNAワールドとともに生まれたと考えていると思う。そのため、核酸を安定化させるという機能を持った核酸結合性タンパク質が生まれた過程のシナリオを目指している。

そこで注目したのがリボゾームに結合するタンパク質S13などが属している、二重鎖の核酸に結合するヘリックス・ヘアピン・ヘリックス構造を持つ一群のタンパク質だ。選択は恣意的と言えるが、RNAワールドから考えると十分納得がいく。

さて、この研究では現在存在するHhH分子の系統樹から、最も祖先形と考えられる配列を推定し、その配列を合成してDNA結合能を調べるところから始めている。現在のHhHモチーフはよく似た異なるペプチドが2量体を形成しているが、このような複雑な組み合わせは原始の世界ではあり得ないので、同じHhHモチーフがリンカーで合体した分子を、おそらく最初に生まれた原始形として再現している。

実際にはHhHモチーフをつなぐリンカーなどを工夫が必要だが、最終的に核酸結合能を持ったタンパク質を再現でき、これをスタートに、まず生物以前に存在できたアミノ酸に置き換えている。すなわち、His,Phe,Tyr,Lysなどは原始の世界では存在しないので、それを他のアミノ酸に置き換える作業だが、これが一番難航したと思う。アミノ酸の化学的性質の近似や、構造などから推察を繰り返し、最終的にアラニンを14個含むペプチドにたどり着き、これが核酸結合能を持つことを確認している。

そして最後に、アラニン以前に多く存在したと考えられるオルニチンでこのアラニンを置き換えてみると、核酸結合能が失われることから、原始の世界ではオルニチンが少しづつアラニンで置き換わる過程が存在したと仮定し、ランダムにオルニチンを置き換えていくと、タンパク質が折りたたまれるようになり、変換の数に従って核酸結合能が回復する。

そしてきわめつけは、アルギニンへの転換が多いほど、核酸を加えた液相で、大きな相分離した液滴を作ることまで示している。相分離は原始の世界を説明するのに重要だと感じていたが、相分離がタンパク質の一つの機能だとすると、私の中のAbiogenesisのシナリオはさらに現実性を持ち始めた。

結果は以上で、これまで抜けていたタンパク質の機能についてのピースが見つかったような気になった。来年の講義から是非使いたいと思う素晴らしい発想の論文だと思う。


  1. okazaki yoshihisa より:

    アルギニンへの転換が多いほど、核酸を加えた液相で、大きな相分離した液滴を作ることまで示している。相分離は原始の世界を説明するのにも重要そうだ。
    Imp:
    生命誕生=物質と生命の境界
    相分離が重要なkeyの一つ
    ソフトマタ-物性の不思議

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