多発性硬化症のような脳の免疫疾患が存在することから、リンパ球が脳実質内に侵入することは間違いがないが、正常状態でもT細胞が存在するのかどうかは昔から問題になっていた。
今日紹介するベルギー・Leuven大学からの論文は、少ないとはいえCD4T細胞は脳実質内に存在し、血液から供給を受けることで少しづつ置き換わっていること、そしてこの存在が脳の発達に重要な働きをしている可能性を示した研究で8月6日号のCellに掲載された。タイトルは「Microglia Require CD4 T Cells to Complete the Fetal-to-Adult Transition (ミクログリアの胎児型から成人型への転換にCD4T細胞が必要)」だ。
この研究ではまず、注意深く脳の実質内にCD4T細胞が存在するか調べている。組織学的、脳の還流による細胞採取などのデータから、マウスの脳内には約2000個程度のCD4T細胞が存在することを確認する。
次に細胞レベルの遺伝子発現をsingle cell RNA sequencingやフローサイトメータによる質量分析器などと組み合わせて調べ、組織滞在型のCD4T細胞が脳では多数を占めること、そして2匹のマウスの血管をつないで一体化させるパラビオーシスを用いて、CD69を発現した滞在型のCD4T細胞は7週間ぐらいで、それ以外は2−3週間で置き換わっていることを明らかにする。すなわち、常に末梢から供給され維持されている。
脳内のCD4T細胞は、末梢と比べると活性化マーカーの発現が高いことから、脳内へは抗原刺激されたT細胞が侵入できると考えられるが、これを確かめるため、脳内あるいは末梢の抗原反応性T細胞の数をコントロールできるトランスジェニックマウスを用いて検討し、末梢で刺激されたCD4T細胞だけが脳内に侵入できることを示している。
とすると、正常マウスでT細胞が刺激を受けるのはどこかという問題が生じるが、無菌マウス、SPFマウス、そして一般環境で飼育したマウスを用い、腸内細菌叢による刺激がT細胞の脳への侵入を後押ししていることを示している。
ここまではなるほどでいいのだが、ここからこの研究は佳境に入る。すなわち、クラスII MHCをノックアウトしたCD4T細胞数発生を抑えたマウスを用いると、なんとミクログリアの成熟が停止することを発見する。同じ現象は、CD4T細胞を除去する抗体を生後5日目に注射してもみられることから、活性化CD4T細胞は脳内でミクログリアの成熟に必須であることがわかる。
成長期にミクログリアの機能が抑えられると、必要ないシナプスを剪定することができなくなり、脳機能に影響があることがわかっているが、CD4T細胞の発生を抑制したマウスでも、シナプスの密度がほとんど低下せず、その結果自発運動が低下、さらに作業記憶も低下することを示している。
結果は以上で、本当かなと疑うような結論だ。信じるかどうかはともかく、このシナリオが正しいと、免疫不全では脳発達も阻害されること、さらにはCD4T活性化に必要な細菌叢が発達しないと、CD4T細胞の脳への移行が抑えられやはり脳発達に影響があることが予想される。事実、これらの可能性を示唆するデータもあるので、このシナリオで説明できるのか検討すれば、自ずとこのシナリオも検証されるように思う。
1:腸内細菌叢が、抹消でT細胞を刺激する。
2:末梢で刺激されたCD4T細胞だけが脳内に侵入
できる。
3:脳内侵入活性型CD4T細胞が、発生中の脳シナプス剪定を行い 脳発生を制御している可能性を指摘。
Imp:
発生:=“システム論”的ですね
還元主義的アプローチを拒み続ける。。。