少し専門的な論文が続いたので、糖尿病の臨床診断に関する論文を取り上げることにした。
2型と異なり、1型糖尿病の患者さんの多くは、知らないうちに高血糖が進み、意識障害に至るケトアシドーシスで発見されることが多く、命の危険を伴う。したがって、まだ決定的な発症を抑える方法は開発されていないとはいえ、早期にリスク予測をして、ケトアシドーシスに至らないよう指導することは重要だ。
今日紹介するPacific Northwest Research Instituteを中心とする国際チームからの論文は小児の1型糖尿病を少なくとも4ヶ月前に予測してケトアシドーシスにしないことを目的としたコホート研究で8月7日Nature Medicineオンライン版に掲載されている。タイトルは「A combined risk score enhances prediction of type 1 diabetes among susceptible children (高い発症リスクを持つ子供の発症予測精度を高める総合リスクスコア)」だ。
現在1型糖尿病リスクの予測確率が高い指標は組織適合性抗原(HLA)タイプなので、この研究では出生時に特定のHLAを持っている子供約8000人を15年追跡して、診断精度を高める指標を確立し、実地臨床でのマニュアルを策定しようと試みている。
10年以上にわたって8000人をフォローして発症を調べたことがこの研究のハイライトで、この豊富な臨床データから相関が示唆された様々な形質、さらには最近新しく示されたHLA以外のSNP アレーを用いた遺伝的リスクスコア(GRS2)などを、このコホートで改めて検証し直し、最終的にGRS2+膵臓に関する自己抗体+そして家族歴を組み合わせた総合指数を用いると、2歳までに診断がつく子供達の数が倍加することを示している。
残念ながら、例えば副鼻腔炎など、臨床的にリスク要因としてこのコホートでも確認しているが、これらを加えてもそれほど予測頻度は高まらない。今後AIなどを用いた方法で、せっかく集めた他の指標を加えた新しい診断法が生まれることを期待したい。
残った3つの要因のうち遺伝的スコアと家族歴は生まれた時から決まっているので、結局この研究から示唆されるのは、ハイリスクの子供をゲノム検査でまず選別し、膵臓に関わる自己抗体(グルタミン酸デカルボキシラーゼに対する自己抗体、インスリノーマ抗原2に対する自己抗体、そしてインシュリンに対する自己抗体)を定期的に調べて総合リスクスコアを毎年計算し直すというプロトコルになる。
これをあらゆる子供で続けるのはコストから考えても非現実的なので、結局新生児でのゲノム検査が広く行えるかどうかが鍵になる。考えてみると,今回の新型コロナウイルスPCR検査能力で浮き彫りになったわが国の後進性から考えると、希望する子供のゲノム検査を受けれるようにすることが、わが国の最も重要な課題ではないかと思う。
GRS2+膵臓に関する自己抗体+家族歴=総合指数を用いると、
2歳までに診断がつく子供達の数が倍加することを示した。
新生児でのゲノム検査が広く行えるかどうかが鍵。
Imp:
ゲノムから複雑形質をどこまで予測できるのか?
実験医学『GWASで複雑形質を解くぞ』
https://www.yodosha.co.jp/yodobook/book/9784758125291/