チェックポイント分子に対する抗体治療以前にも、ガンに対するモノクローナル抗体治療が行われてきたが、中でも最も広く使用されているのが抗CD20抗体だ。現在利用されている抗体薬は、リツキシマブ、オビヌツズマブ、そしてオファツムマブで、B細胞系のガンや、自己免疫病の治療に使われている。
いずれも同じ標的で何種類も必要ないように思えるが、リツキシマブの抗原結合部分がマウスの抗体由来なので、ヒト化したオビヌツズマブとオファツムマブが開発された。それぞれはガンやB細胞を障害する目的で使われるが、同じIgG抗体なのに補体の活性作用が大きく異なることが知られていた。
今日紹介するパストゥール研究所からの論文は実際に利用されている3種類の抗体薬がCD20と結合した時の立体構造をクライオ電顕で解析した研究で、同じ抗体でもこれほど違うのかということがよくわかる研究だ。タイトルは「Binding mechanisms of therapeutic antibodies to human CD20 (ヒトCD20に対する治療抗体の結合機構)」で、8月14日号のScienceに掲載された。
この研究では、抗原との結合能や補体結合能を生化学的に検討して、抗原結合部位は、モノマーでも、ダイマーでも機能することを確認した上で、通常の抗体からFc部分のみを削ったFab2(ダイマー)と精製したCD20(ヘテロダイマー)との結合させ、その構造をクライオ電顕で解析している。
クライオ電顕はもちろん精密な構造解析に用いられるが、同時に実際の分子の大まかな形をそのまま画像としても見ることができる。まさに百聞は一見にしかずで、構造は全く違っている。補体結合能が高い(TypeI)として知られているリツキシマブ(RTX)およびオファツムマブ(OFA)は、CD20とFab2が2:2、3:3、4:4で結合した様々な複合体を観察できる。ところが、補体結合能が低い(TypeII)オビヌツズマブ(OBZ)は一個のFab2に2個のCD20が結合した構造だけがみられる。言い換えると、TypeIは一個のCD20にFab2の両方の抗原結合部位が結合できるのに、TypeIIは一個のCD20にFab2の片方の公言結合部位しか結合できないことを示している。
この研究ではこの構造学的ベースについて、3.7-4.7オングストロームの解像度で解析を行っているが、視覚的な構造をうまく説明できるとは思わないので、詳細は割愛して、結論だけを紹介する。
要するに抗体とCD20が結合すると、CD20側も、抗体側も立体構造が変化する。この時、Type IIの場合CD20ダイマーの片方に抗体のFabが結合すると、もう一つ抗体結合部位があるにも関わらず、他のFab結合が立体的にできなくなる。この結果、Type II抗体はCD20を媒介として抗体が大きな複合体を作れず、結果として補体結合効率が低下する。
一方TypeIの場合、一つのCD20ダイマーに2個の抗体のFabが結合できるため、同じ数のCD20あたり倍の抗体が結合でき、大きな複合体ができ、補体結合能が上がる。
以上が結果で、これだけ広く使われている抗CD20抗体薬の立体構造のこのレベルでの解析がまだだったことに驚くとともに、それぞれの特徴がよくわかった。CD20抗体は様々な疾患に使われており、それぞれの抗体に得意、不得意があると思うので、今回の構造解析を頭に、新たに生物活性の違いを整理するのも面白いと思う。
抗CD20抗体薬と一口に言っても、効き方は微妙に違うようです。
ゼヴァリン=CD20抗原に結合する抗体医薬の一種で、 β線を放出する放射性同位元素(イットリウム(90Y))を結合。
抗体の力+放射線の力=放射免疫治療薬など可能性は様々。
腫瘍シグナル伝達系の不均一性の影響を受けにくいなどの長所は魅力的です。