多くの医学生は電子顕微鏡で捕らえられた月面着陸船の様なファージウイルスの精妙な構造を目にして、感銘を受けたはずだ。それほど実際に目で見ることは重要だ。今回の新型コロナウイルス感染症でも、ウイルスがコードする多くのタンパク質の構造が、クライオ電子顕微鏡などを用いて詳しく解析され、薬剤の開発を後押ししている。
今日紹介するオランダ ライデン大学からの論文はdouble membrane vesicle(DMV)と呼ばれる小胞構造が、ウイルスの増殖のための隠れ家として機能できるのかについて電子顕微鏡でひたすら観察した研究で、9月12日号のScienceに掲載された。タイトルは「A molecular pore spans the double membrane of the coronavirus replication organelle (コロナウイルス増殖オルガネラの二重膜を貫く穴の構造)」だ。
コロナウイルスRNAは、ウイルスゲノムとしては大きく、自然免疫に検知されることなく増殖するための複雑な機構を備えている。中でも重要なのが細胞内の小胞体を構成し直して形成する小胞構造DMVで、これは増殖オルガネラ(RO)と呼ばれる。これにより、ウイルスRNAは自然免疫を刺激することなく、自由に増殖できるが、いつかはROから外に出て、新しいウイルス粒子にパッケージされたり、ホストのリボゾームに結合して翻訳に関わる必要がある。
この研究では新型コロナウイルスではなく、安全に研究できるネズミ肝炎コロナウイルスが感染した細胞のウイルス増殖オルガネラを、クライオ電子顕微鏡でひたすら観察している。新型コロナ感染細胞も基本的には同じと考えている。見えたものを言葉で表すのは難しいが、見て面白いと思ったものを以下に列挙しよう (オープンアクセスなので実際の写真も見ることができます:https://science.sciencemag.org/content/369/6509/1395)。
- まずROにつながった紐の様な小胞体が見えることから、小胞体が再構成してできたのがROであることがわかる。
- 期待通りROの中には糸状のRNAが詰まっている。そして一部は長いdouble strand RNAとして存在している。
- ROには複数の二重膜を貫く分子複合体が存在し、中央に細孔を形成して細胞質とつながっている。
- この分子複合体の正体はnsp3で6個の分子で一つの細孔を形成している。
- この複合体に直接おそらく複製複合体と思われる分子が結合している。
- 細胞質側に突き出た腕にもおそらくNタンパク質と思われる分子との結合が見られる。すなわち、ROから出てきた+RNAにNタンパク質はここで結合する。
- Nタンパク質が結合したRNAは細胞質を拡散してスパイク分子やMタンパク質が結合した小胞体に結合、ウイルス粒子を作る。
以上文字で表現したことが全て写真で示されているので、ぜひ見てほしいと思う。もちろん見ただけでは、ウイルスのプラス鎖とマイナス鎖が如何区別されるのかや、他のnsp4, nsp6がRO形成に如何関わるかなど、まだまだ見たい部分もあるが、時間の問題だろう。
素人なのでこれらの像を撮影するのがどれほど難しいか想像がつかないが、時間がかかっていることを考えると、本当は大変な作業だったのだろう。しかし、見ることの重要性がよくわかる研究だった。
重要なのが細胞内の小胞体を構成し直して形成する小胞構造DMV(増殖オルガネラ(RO)と呼ばれる)。
RO内でウイルスRNAは自然免疫を刺激することなく自由に増殖できる。
最終的にはROから外に出て、新しいウイルス粒子にパッケージされたり、
ホストのリボゾームに結合して翻訳に関わる必要がある。
Imp:
この過程を聞いたとき、“エクソソーム”を連想しました。
ウイルス⇒エクソソームから進化した??こんな妄想が浮かびました。。。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9%E3%81%AE%E9%80%B2%E5%8C%96