AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 4月12日 より良い抗がん剤を求めて(4月号、Blood誌及びアメリカアカデミー紀要掲載論文)

4月12日 より良い抗がん剤を求めて(4月号、Blood誌及びアメリカアカデミー紀要掲載論文)

2014年4月12日
SNSシェア
このホームページでも紹介したが、慢性骨髄生白血病はがんの標的薬が大成功をおさめた最初の病気だ。白血病に限らず多くのがんで、細胞の異常増殖を調節する主役の遺伝子異常がある。これをドライバー突然変異と読んでいるが、このドライバーの機能が抑制できると、がんの増殖を止める確率が上がる。ゲノム研究が進んだおかげで多くのがんで働くドライバーが見つかって来たが、残念な事に、重要なドライバーの多くは、その活動を抑制できる薬がまだ発見されていない。最も典型的な例がRASと呼ばれる遺伝子で、直腸がん、肺がん、膵臓がんなど多くのがんのドライバーである事がわかっていても、薬剤の開発には至っていない。もしRAS活性を直接阻害できる薬剤が開発されれば、がんとの戦いは大きく前進する。急性骨髄生白血病(AML)もまだドライバー阻害剤が使えない腫瘍の一つだが、約3割のAMLがFlt3と呼ばれる受容体の突然変異をドライバーとして使っている事がわかっている。この事はずいぶん前から知られていたため、この分子に対する標的薬が開発され、現在第2相の臨床治験が進んでいる。ただこれまでの治験から、現在治験中の薬の問題点が見えて来ている。先ず特異性に問題があり、Flt3以外のキナーゼ分子を抑制してしまい、副作用が出る。また、Flt3遺伝子を活性化させる幾つかの突然変異が知られているが、現在治験中の薬剤は一部にしか効果がないと考えられている。もちろんそれでも大きな前進で、早期に治験が終わり、薬が効くドライバーを持つAMLを選んだ治療が一刻も早く進む事を願う。高齢者のAMLは骨髄移植が困難なだけでなく、薬剤の副作用が出やすいため標的薬の開発は急務だ。もちろん問題があれば、新しい挑戦が始まる。今日紹介する2編の論文は、第一世代の薬剤の治験が進む一方で、より良い薬剤がしっかりと開発されている事を示す論文だ。一編は4月号のBlood誌、もう一編はやはり4月号のアメリカアカデミー紀要に掲載されている。最初はジョンホプキンス大学の研究でタイトルは「TTT-3002 is a novel FLT3 tyrosine kinase inhibitor with activity against FLT3-associated leukemias in vitro and in vivo (TTT-3002は新奇のFLT3チロシンキナーゼ阻害剤で、FLT3と連関する白血病に効果がある)」で、もう一編はカリフォルニア大学からの論文で「Crenolanib is a selective type I pan-Flt3 inhibitor (クレノラニブは特異的1型のFlt3阻害剤で、ほとんどのFLT3突然変異に効果がある)」だ。   これらの研究はまだ実験段階だが、TTT3002とクレノラニブがともに、第二世代のFlt3阻害剤として、これまで開発された薬剤より優れた特徴を持っていると言う結果だ。特異性は極めて高く、安心して高齢者にも使えるのではと期待をいだかせる。更にこれらの研究で調べた全ての異常FLT3及び、正常FLT3にも効果がある事から、FLT3をドライバーとして使う全てのAMLの標的薬になり得る。Flt3自体は全くなくともマウスが生存できる事から、ともかくFLT3なら特異的に阻害する薬はAMLに特異的に聞く可能性が高い。患者さんにとって、がんの治療薬は少しでも高い効果を持ち副作用が低い薬剤が望ましい。第一世代の治験が進む間にも新しい薬が開発されているスピード感には勇気づけられる。日本の製薬も、切り札と呼ばれる薬がどれほど市場に出回ろうと、より良い抗がん剤を求めて果敢にチャレンジして欲しいと願っている。
  1. Okazaki Yoshihisa より:

    変異RAS遺伝子:直腸がん、肺がん、膵臓がんなど多くのがんのドライバーである事がわかっていても、薬剤の開発には至っていない。

    AMLに対して第一世代FLT3受容体阻害剤、第二世代FLT3阻害剤:開発中。

    →細胞のシグナル伝達と疾患の関係、system&synthetic biologyとしても興味深い領域であることに気づきました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*


reCaptcha の認証期間が終了しました。ページを再読み込みしてください。