慢性腎炎の治療の柱は食事制限だが、これまで忘れられていた腎障害経路が腸内細菌叢だ。確かに言われてみると、アミノ酸代謝経路からインドールのような腎毒性のある分子が腸内で合成され、これが慢性腎炎を悪化させる可能性がある。
今日紹介するハーバード大学からの論文はこの可能性を追求し、腎毒性を調節できる一つの経路を特定した研究で9月18日号Scienceに掲載された。タイトルは「Diet posttranslationally modifies the mouse gut microbial proteome to modulate renal function (食事がマウス腸内細菌叢のタンパク質の翻訳後調節により腎機能を調整する)」だ。
この研究ではマウスにアデニンを投与し、腎毒性のあるDHAに変換して慢性腎炎を誘導するモデルを用いて、この時やはり毒性を持つH2S、 インドールなどの元になる硫黄を含みアミノ酸(具体的にはシステインやメチオニン)を食べさせる実験系で慢性腎炎を悪化させるか調べている。
少なくとも私の予想に反して、硫黄を含むアミノ酸(SAA)投与量が低いほど、血清のクレアチニンが上昇し、組織的に腎炎が悪化する。しかし、これは腸内細菌叢が存在する場合だけで、無菌マウスでは悪化が抑えられる。ただ、完全に元に戻るわけではないので、著者らがいうほどはっきりした結果とは思えないが、いずれにせよ腸内細菌叢はもともと陣毒性物質を産生しており、SAAを多く食べさせることでそれを抑えられることが示唆された。
ただ、腸内細菌叢ではあまりに複雑なので、この研究ではこれを大腸菌に置き換えて、大腸菌が存在するときに低SAA食により、慢性腎炎が悪化するというシステムに転換して、大腸菌側の遺伝子を変化させ、このメカニズムを探っている。
SAAを多く与えた方が、腎障害が防げるという結果は、SAAが大腸菌の代謝を変化させ、その結果腎毒性物質の合成が下がることを示唆している。SAAはタンパク質のスルフィド化に関わることから、著者らはタンパク質がSAA投与でスルフィド化されることで大腸菌側の酵素活性が抑えられ、腎毒性物質合成が下がるのではと考えた。
そこでスルフィド化される大腸菌タンパク質を特定し、その中からトリプトファンをインドールに変換するTnaAを特定する。そして、SAAによりTnaAがスルフィド化されることでインドール合成が抑えられ、大腸菌の腎毒性を抑えることができることを示している。
わかりにくいかもしれないのでもう一度まとめると、腸内細菌叢の中にはインドール合成により腎障害に関わる種が存在するが、SAAを多く与えてこの過程に必要な酵素活性を抑えると、腎臓を守ることができるという話になる。
一つの経路だけの話だが、腸内細菌叢が腎毒性物質を合成する可能性は明確に示され、またそれを食事中のアミノ酸などで抑えることが可能であることは、治療上重要な指摘だと思う。
腸内細菌叢が腎毒性物質を合成する可能性は明確に示され、
またそれを食事中のアミノ酸などで抑えることが可能であることを示唆する。
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腎疾患では食事療法も重要視されます。
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