4月10日最初に指摘して以来(https://aasj.jp/news/watch/12765)何度も繰り返す様に、新型コロナウイルス(CoV2)特異的な薬剤として最初に登場するのはモノクローナル抗体薬になる。感染者のB細胞のsingle cell解析を行い、抗体遺伝子を取り出して、そのままモノクローナル抗体として使う技術は既に完成しているし、抗体薬を考えるのは当然のことだ。事実既にいくつかの抗体薬の第3相の治験は終わりつつあることは、この技術の完成度を物語る。大量生産については受託生産するファウンダリーも多く存在し、一定の量であれば臨床用の生産はすぐできると思う。FDAも迅速審査を行うだろう。もちろん治療薬開発を支えるCoV2に対する抗体反応についての論文の数は多く、もはや新しい発見があるとは思えないほど飽和している様に見える。
この様な現状をみると、今更CoV2に対するモノクローナル抗体の論文に新規性は全くない様に思うが、今日紹介したい2篇の論文は、CoV2に対する抗体利用についてまだまだ調べることがあり、たとえ現在治験が進んでいる抗体薬が市場に出回っても、まだまだ改良の余地があることを示した研究で、先週CellとScienceに相次いでオンライン掲載された。
それぞれ感染経験者のB細胞から抗体遺伝子を分離、それを発現させた抗体の反応を調べるという点では、これまでの研究と同じで、示されたデータの多くは、これまで発表された論文の再確認なので、新しいと思った点について列挙する。
まずCellに掲載されたベルリン神経変性疾患研究センターからの論文では、10人の患者さんから集めた500近いモノクローナル抗体について解析し、
- 抗原特異性を問わず、メモリーB細胞のみを純化してCoV2スパイクに反応するクローンの頻度を調べ、平均7%ものクローンがCoV2反応性であることを示している。すなわちかなり高い頻度で抗体反応が細胞レベルで誘導されている。またその多くがウイルス感染に対する中和活性を持つ。
- これまで示された結果通り、生まれつき持っている抗体遺伝子を用いている抗体が多く、突然変異の蓄積は少ない。その中で選んだ最も中和活性が高い18種類の抗体のうち、なんと4種類がマウスの組織に反応する。残念ながら、人間の組織で調べていないので不満は残るが、自己組織反応性の抗体がワクチンなどで誘導される確率は高いので、注意が必要。また、治療用のモノクローナル抗体も、自己組織反応性のチェックを厳密にする必要がある。
- 珍しく33箇所の変異が認められた中和抗体も分離しているが、結合サイトは、他の抗体と異なっている(ただ、これを一般化できるかはまだわからない)。
- ハムスターモデルで感染実験を行なっている。鼻粘膜に感染させる前、後で最も中和活性の高い抗体を投与して、ウイルス量を各組織で調べている。いずれの方法でも、症状を抑えることに成功しているが、面白いのは予防的に投与しても、鼻粘膜でのウイルス感染は防げず、鼻粘膜でウイルスは増殖する。しかし、その後起こる肺病変は完全に抑えられる。もし鼻粘膜にも移行できる抗体が使えれば、感染自体を抑えることも可能かもしれない。
- 肺炎が発症した後での投与実験が行われていないので、抗体治療を行うとすると、早めに1回注射ということが最も合理的プロトコルになる様に思う。
Scienceに発表された、ワシントン大学からのもう一編の論文は、CoV2のスパイクの構造と抗体の関係を考慮して治療抗体のあり方を提案した研究だ。ここでも紹介した様に(https://aasj.jp/news/watch/13833)コロナウイルススパイクタンパクは、様々な修飾を受けて、最終的にウイルス侵入を助けるため、その構造は七変化とすらいえるほど変化する。この研究では、ACE2に結合する前の構造と、結合するためのRBDがオープンになった構造に対する2種類のそれぞれ中和抗体を調べ、オープン前の構造に対する抗体は、スパイクの構造を閉鎖型で安定化させ、ACE2結合部位が表面に出るのを抑えることで中和することを示している。
この研究では、中和活性だけでなく、感染細胞を殺すためのADCC やADCP活性も調べており、両方を同時に存在させることで、多様な抗ウイルス活性を実現できることを示している。
最後に、これまでスパイク遺伝子に発見された変異を集めて、2種類の抗体を組み合わせた場合の有効性について調べ、2種類を組み合わせることで、ウイルスの変異により抗体薬が効かなくなる確率を下げられることを明らかにしている。
重箱の隅を突くといってしまえばそれでおしまいだが、本当に詳細な研究が進んでおり、少なくとも私にとって新しいことが報告され続けていることがよくわかる2篇の論文だった。しかし、ここまでしなくとも、今の抗体薬で十分だろうが、安心できるに越したことはない。
1:自己組織反応性の抗体がワクチンなどで誘導される確率は高いので、注意.
2:治療用のモノクローナル抗体も、自己組織反応性のチェックを厳密にする必要がある。
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期待のコロナ感染症治療薬:中和抗体
東京オリンピック無事開催、2類感染症の見直しetcが順調に進むことをお祈りします。