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10月2日 シナプス小胞の動態を厳密に観察する(9月28日号 Nature Neuroscience 掲載論文)

2020年10月2日

美術の学生さんと話していて感じるのは、半分は生まれつき、半分は訓練で獲得されてきたイメージを把握し、脳内で処理するときの厳密さだ。要するに、私たちが見えても認識できていないものが認識できている。同じ印象は、優れた形態学者と話していても感じる。例えば亡くなった友人、月田さんのセミナーを初めて聞いた時から、この人の脳内でのイメージの処理は全く違っていると感じた。この様な人たちは、頭の中に厳密なイメージが形成されるまで見たとは思はない様で、それが獲得されるまで最大限の努力を傾ける。

今日紹介するジョンズホプキンス大学Watanabe研究室からの論文はプロセスを厳密に見たいという形態学者の執念が感じられる研究で9月28日号のNature Neuroscienceに掲載された。タイトルは「Synaptic vesicles transiently dock to refill release sites(シナプス小胞がトランスミッターを遊離するためのドッキングは一過性)」だ。

私の頭の中のシナプスでの神経伝達過程はかなり以前からアップデートしていない。もちろん、SNAREをはじめとする分子過程についてはある程度アップデートできていても、シナプスに輸送されてきたシナプス小胞が膜直下で神経シグナルが来るのを待って、刺激が来ると膜と融合してトランスミッターを遊離するという形態的イメージはなんら変わっていない。

しかしプロの間では、いくつのシナプス小胞がトランスミッターを遊離するのか、刺激が来るまでの間、ドッキングはどの様に調節されているのか、次の刺激に対してどう小胞が準備されるのかなど、議論が続いていた様だ、

この研究では、Zap-and-freeze法と名付けたシナプスを刺激した後ms単位で組織を高圧急冷して電子顕微鏡で観察する方法を開発し、シナプスで小胞がドッキングし、膜融合する過程を時間を追って追いかけている。すなわち、この研究のハイライトは、シナプスでのプロセスを厳密に見ることを可能にする方法の開発といっていい。実際、シナプスに小胞が集まり、その中のいくつかがアクティブゾーンの膜上にドッキングし、刺激でいくつかが膜と融合する過程を示されると、何が起こっているのか素人の私にもよくわかる。

あとは、ここ技術を使ってプロの間で議論が続く課題に答えている。

  • これは素人の私も習ったことがあるが、刺激に反応して起こる小胞の膜融合とトランスミッターの放出は、一個づつと制限されているのか、それとも複数の小胞が同じ刺激に反応して融合するのかという問題については、複数の小胞が一度に反応できることを示している。さらに、細胞外のカルシウム濃度を上昇させると、なんと一つのアクティブゾーンに10個以上の小胞が融合する像まで見せている。
  • また、おそらくドッキングなどの過程に関わる分子を共有するためか、カルシウムの低い状態ではシナプス内で近接する小胞体同士がセットになってドッキングから融合を行なっている。
  • ドッキングした小胞の融合は5ms程度の早い過程で、11ms以降に見られる融合は刺激とは無関係。驚くことに、それぞれの融合過程が起こりやすい場所も違っており、刺激により膜上で進むプロセスの局在をさらに明らかにすることの重要性を物語っている。
  • 個人的に最も面白かったのは、アクティブゾーンへの小胞のドッキングが一方向の過程でない点だ。これまで、ドッキング、融合は不可逆的に起こると思ってきた。しかし、ドッキングした小胞の一部は融合し消失するが、残りは膜から離れて次の待機ゾーンへと後退し、次の刺激を待つというダイナミックな過程が示された。
  • 刺激後14ms以内に新しい小胞のドッキングが準備され次の刺激に備えられる。しかし、そのまま刺激がないとドッキングした小胞は減少し、回復には10秒近くかかる。

以上、シナプス小胞が伝達のアクティブゾーンと、レザバーとを動的に行ったり来たりして、持続的な伝達能力を維持していることを見ることができた。しかし、生化学的プロセスだとあまり気にならないが、これを書いている間に私の脳内の数え切れないシナプスで、こんなことが起こっているのかと考えると、本当に驚いてしまう。


  1. okazaki yoshihisa より:

    シナプス小胞が伝達のアクティブゾーンと、レザバーとを動的に行ったり来たりして、
    持続的な伝達能力を維持していることを見ることができた。
    Imp:
    生命現象:ある時点のスナップショット1枚だけで解析するのではなく、可能な限り時間軸も入れて観察するのが大事なようです。

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