腸内細菌叢が直接自律神経系を刺激して、中枢神経系に影響を及ぼすことは、一般的に認められる様になっているが、腸管はこの様な自律神経系の支配とともに、神経堤から移動してくる、粘膜下のマイスナー、筋層のアウエルバッハ、腸管固有神経叢の支配を受けており、これらも当然腸内細菌叢の影響下にあると考えられる。
今日紹介するロックフェラー大学からの論文は腸管各領域の腸管固有神経叢を分子マーカーで詳しく分類し、それぞれの集団と腸内細菌叢との関係を調べた力作で10月16日号のScienceに掲載された。タイトルは「Microbiota-modulated CART + enteric neurons autonomously regulate blood glucose (腸内細菌叢により変化したCART陽性腸管神経は自発的に血糖を調節する)」だ。
この研究では、腸管固有層の神経叢の領域による多様性を手がかりに、この多様性に腸内細菌叢が関わるかどうかの検討から始めている。まず、生体内で新たに転写が始まった遺伝子の転写を神経特異的に調べる方法を用いて、特に神経ペプチドの発現の違いなどで特定できる局所的な多様性が存在し、この多様性のかなりの部分が、局所の細菌叢の量や質の違いによって決まっていることを突き止める。
加えて、細菌叢が存在しないと腸管固有神経自体の数も低下することがわかった。この神経細胞減少は、細菌叢移植により元に戻ることから、細菌からのシグナルが神経細胞の生存に必要で、このシグナルがないと細胞死のエフェクターCasp11依存性に、神経細胞が死ぬことを確認している。そして、この一部は、腸管を出て肝臓や膵臓の自律神経とシナプス結合を有することを発見する。
この様にして、各領域の腸管固有神経特異的な分子マーカーを確立したあと、回腸の固有神経細胞が発現しているCART遺伝子座を操作し、細胞特異的に刺激やが可能なマウスを作成し、腸管固有神経を外的に興奮させる実験を行なっている。驚くことに、CART陽性神経興奮が続くと、血糖が上昇し、インシュリン分泌の低下が見られること、そしてこれは腸管固有神経から腸管外へと伸びたシナプス結合により、肝臓での糖新生が調節されているためでであることを明らかにしている。
逆に、腸管固有神経細胞維持に必要な細菌叢を抗生物質投与で除去すると、腸管神経細胞が減少し、この結果肝臓への刺激伝達が欠損するため、血糖の低下が見られることを確認している。しかし、細胞死に関わるCasp11が欠損したマウスでは神経細胞死が起こらないため、血糖の低下は起こらないことも明らかにしている。
以上が結果で、細菌叢はその腸管固有神経細胞の維持と多様化に大きく関わっており、特に回腸のCART陽性神経細胞は、興奮により肝臓での糖新生を高めることで、血中のグルコースレベルを維持しているとするシナリオを提案している。少し複雑だが、腸内固有神経細胞というニッチを標的にした面白い力作だと思う。
1:細菌叢はその腸管固有神経細胞の維持と多様化に大きく関わっている。
2:細菌叢から刺激⇒回腸CART陽性神経細胞興奮⇒自律神経刺激⇒肝臓での糖新生up⇒血中のグルコースレベル維持
Imp:
肝臓での糖新生:グルカゴン(ペプチドホルモン)だけでなく、神経回路(電気信号)によっても調節されているようです。
21世紀、神経回路網も創薬?のターゲットになっていきそうな予感が。。。
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