犬のゲノムの研究はかなり盛んに行われている様に思う。これはペットとして人間にとって大事な動物であるというだけでなく、犬の多様性が人間による交配で行われてきたため、犬のゲノム多様性から、人間自体の好みや生活がわかるからと言える。とはいえ人の手による交配の結果、現在世界に存在する犬のほとんどはヨーロッパ種で席巻され、過去の歴史がわかりにくくなってており、有史以前のゲノムを調べないと、狼から分かれた後の人間との関係の歴史は明らかにならない。
今日紹介する英国Francis Crick研究所からの論文は、犬の家畜化・ペット化が始まった時代に近い1万年前から、1千年前まで、世界各地、様々な時代の犬の骨からDNAを抽出し、ゲノム解析した研究で、現存の犬ゲノムを理解するための重要なデータを提供している。タイトルは「Origins and genetic legacy of prehistoric dogs (有史以前の犬の起源と遺伝的遺産)」だ。
27個体の骨の時代推定を行い、ゲノムを解析する努力を考えると、執念を感じる研究だ。その結果、期待していた様に犬の起源だけでなく、人間と犬の関係も明らかにした面白い研究になっている。そこで、いくつかの問題に分けて結論のみ紹介する。
- 古代ゲノムを知ることで、西型から東型まで、はっきりとゲノムが区別できる5種類の犬の原型を特定できる。ただ、全ての原型は一つの起源とつながており、おそらく犬は一種類の今は絶滅した灰色狼から別れ、その後東型、西型の間で限られた回数の交雑が繰り返され、最終的に七種類の原型が形成された。
- 面白いことに一旦狼から分離すると、犬に狼のゲノムは流入した痕跡がない。一方、犬から狼に対しては何回かの交雑が起こっており、現存の狼には犬由来のゲノムが多く見られる。他の家畜では双方向の交雑が知られているので、犬がいかに人間に近いところで管理されていたかを伺わせる。
- 人類の交雑の歴史に、完全でなくても犬の交雑の歴史はオーバーラップする。これも犬が人間と密接につながって生活していることを示す。
- 新石器時代に入って人間が定着し、農耕を始めると、人間と同じで犬のゲノムもそれまでの狩猟採取民型から農耕民型に変化し、例えばデンプンの分解に関わるアミラーゼ遺伝子などが増幅する。
- 新石器時代後期から青銅器時代、ヨーロッパはインドヨーロッパ語起源となる言語を持つヤムナ文化に征服されるが、当時の犬にも原住犬とヤムナ犬の交雑が見られる。面白いことに、人間と異なり、ヤムナ犬に置き換わるのではなく、ヨーロッパ原住犬のゲノムがしっかりと維持された。おそらくヤムナ文化をもたらした新しい人たちのお眼鏡にかなった犬は逆に尊重されたのだろう。
以上が結果で、犬ゲノムから人間の歴史の新しい側面を十分掘り起こせることがよくわかった。
おそらく犬は一種類の今は絶滅した灰色狼から別れ、その後東型、西型の間で限られた回数の交雑が繰り返され、最終的に七種類の原型が形成された。
Imp;
金魚のように多種多様に見える“犬”。
源流は、異種類の灰色狼の可能性が。。。。
“進化”を目撃しているような感覚です。