AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 11月9日 見れば見るほど新しい発見がある新型コロナウイルス・スパイク分子  (11月6日 Science 掲載論文)

11月9日 見れば見るほど新しい発見がある新型コロナウイルス・スパイク分子  (11月6日 Science 掲載論文)

2020年11月9日
SNSシェア

新型コロナウイルス(Cov2)のスパイク分子の構造に関する論文は、もはや専門家でないと読み切れないほど多く発表されていると思う。ほんの一部については以前紹介したが(https://aasj.jp/news/watch/13811)、決まった一つの構造というより、分解されたあと相手側と相互作用しながらトライマーを形成し、伸びたり縮んだりしながら最終的に細胞膜同士の融合を誘導する。不謹慎を許してもらえれば、惚れ惚れする。

しかしこれほど寄ってたかって同じタンパク質を見ても、まだまだ新しい発見がある様で、今日紹介する英国ブリストル大学からの論文は、スパイク分子にリノレイン酸が食い込んで構造を調節しているという発見で11月6日号のScienceに掲載された。タイトルは「Free fatty acid binding pocket in the locked structure of SARS-CoV-2 spike protein (SARS-CoV-2スパイクタンパク質の閉じられた構造には脂肪酸が結合している)」だ。

この研究では昆虫細胞に遺伝子を発現させて、最初からトライマー型のスパイク分子が分泌される様にし、ここから精製したタンパク質の構造をクライオ電顕を用いて観察している。約6万個のタンパク粒子を調べ、こうして用意したスパイク分子の7割が閉鎖型の構造を持ち、閉鎖型ではリノレイン酸が受容体結合部位に存在する小さな裂け目に食い込んでいることを発見する。

生成したタンパク質を質量分析にかけて、リノレイン酸の存在が確認できるので、合成途中で脂肪酸を取り込んだ構造が分泌されていたことがわかる。もともと閉鎖型はACE2への結合が低いことが知られているので、まずリノレイン酸が遊離する処理すると、ACE2への結合力が高まることを明らかにしている。すなわち、リノレイン酸結合は感染性を低下させる。

最後に試験管内で上皮細胞への感染実験を行い、リノレイン酸の抑制効果を調べているが、単独ではうまくいかないのか、実際にはレムデシビル処理によるウイルス増殖阻害と組み合わせることで、ウイルス増殖を抑えることができることを示している。。

これだけ聞くと、リノレイン酸で感染が抑えられるという話になるが、実際は開放型と閉鎖型の移行はダイナミックなので、このダイナミズムを壊して完全にロックできる様なリガンドを探索する方向に研究が進むと思う。いずれにせよ、この裂け目構造はSARS, MERSなど病原性の高いコロナウイルスには存在し、狙い目としては有望だと思う。

最後の問題は、どうしてわざわざロックがかかって感染性が低下する鍵穴を持っているのかだが、リノレイン酸と結合して感染組織のリノレイン酸濃度を低下させることで、アラキドン酸経路を抑えて、免疫や炎症から逃れる機能があるのでは考えている様だ。

おそらくプロの手にかかれば、安定的に感染性を低下させるリガンドが見つかると期待できる。体内での再感染を抑えることができなくても、鼻粘膜や気道への感染を抑える目的の予防薬を是非開発してほしい。

  1. okazaki yoshihisa より:

    スパイク分子にリノレイン酸が食い込んで構造を調節しているという発見
    Imp:
    昨夜の「NHKスペシャル」視聴しました。
    スパイク蛋白のターゲットー:ACE2分子⇒
    脳内脈絡叢はじめ、人体の多くの部位に発現しているようで、、、
    “脳の霧”といわれる、恐ろしい症状も引き起こすとか。。。。
    “普通の風邪”とは違っているようです。

    1. nishikawa より:

      私はみていませんが、何か新しいことはわかるのでしょうか。

okazaki yoshihisa へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*


The reCAPTCHA verification period has expired. Please reload the page.