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11月13日 嗅覚のメタマーをデザインできるか(11月11日 Nature 掲載論文)

2020年11月13日
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メタマーとかメタメリズムという言葉は一般には馴染みがないかもしれないが、服飾、建築、さらにはカラーディスプレー設計まで、色彩を扱う人には広く知られている。すなわち混じり合っている色の成分は違っていても、感覚的には同じ様に見える組み合わせを意味している。三種類の錐体細胞からのシグナルと、稈体細胞からの光度の情報を統合して色を感じる我々の情報処理システムを考えると、当然の概念だと思うが、どの組み合わせが同じに見えるかを科学的に決定するための情報科学は現在極めて重要な分野となっている。

今日紹介するイスラエルワイズマン研究所からの論文は匂いの成分からメタマーを設計できるかチャレンジした面白い研究で11月11日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「A measure of smell enables the creation of olfactory metamers(匂いを測定することで嗅覚メタマーを創造できる)」だ。

三種類の錐体細胞と稈体細胞のシグナルから統合される色彩感覚と違い、嗅覚細胞は何百種類もあり、メタマーの研究が簡単でないことは想像がつくが、要するに匂いの成分を組み合わせて、匂いという感覚をデザインできるかという問題になる。このために、一つ一つ、あるいは組み合わせた匂いを実際に嗅いでもらってその結果を情報処理することになるが、匂いの場合表現があまりに主観的なので(ワインテースティングの表現を考えればわかる)、結局二種類の匂いがどの程度違っていると感じるかを数値化して、これをもとに各匂いを情報空間上に位置付けるという情報処理方法に頼るしかない。

実際には4種類から10種類の成分を組み合わせた14種類を2種類づつ嗅ぎ比べ違いを数値化してもらい、これをもとに各組み合わせの感覚の違いを予想するモデルを構築している。これができると、実際の匂いも、この合成の匂いと比較してもらうことで、数値化することができ、それぞれの匂いの近さを、このモデルから予想することができる。実際、専門家に調合してもらったバラ、すみれ、香辛料アサフェティダの違いを予測することができることを示している。

また、この方法を用いることで、各人の匂い感覚の鋭さについてもかなり正確に推定することが可能であるようで、例えばワインのテースターに向いているか予測するテストになるのではと興味が湧く。

最後に、ほとんどの人が同じと感じる匂いのメタマー(構成成分の異なる組み合わせ)が存在するかどうか、匂いの比較実験結果から選んだ二種類の組み合わせを比べさせる実験を行い、80%以上の人がほとんど同じと感じる、成分が全く異なる2種類の組み合わせが存在することを確認し、匂いのメタマーを作ることができたと結論している。

よく考えると、2種類を感覚的に比較してスコア化した数値をもとにモデル化することで、各成分の感覚を数値化できるという話で、確かに異なる匂い成分を組み合わせて同じ感覚を誘導できたとしても、メタメリズムを本当に理解できたのか疑問に感じる。実際、例えば異なる成分を組み合わせて同じ匂い感覚をデザインするという究極の課題には、まだまだ遠い。これは、色彩と違って、異なる刺激に対する神経細胞の数が多すぎるからだが、この研究はこの長い道のりの第一歩として評価できると期待している。

  1. okazaki yoshihisa より:

    例えば異なる成分を組み合わせて同じ匂い感覚をデザインするという究極の課題には、まだまだ遠い。
    色彩と違って、異なる刺激に対する神経細胞の数が多すぎるからだ!
    Imp;
    嗅覚。
    生命生存にとっては“視覚”より重要なのかもしれません。
    熊(その嗅覚は犬の21倍で、ほ乳類界最強とされ、地球上の動物の中で、最も鼻が利く動物だと考えられている)の“嗅覚メタマー”は更に複雑に!?.

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